第13話:第二王子に会いました
「俺たちも会場を出よう。ちょうどお昼だし、昼ごはんを食べに行こうか。ここには食堂があるのだが、とても美味しいんだよ」
へ~、食堂があるのね。それは楽しみだわ。
「おい、ミシェル。お前最近料理を作っているんだろ。お菓子ばかりじゃなく、たまにはサンドウィッチとかそういったものを作れよ。そうすれば、大会の時とかに食べられるだろう」
確かにサンドウィッチとか作れれば、今後レオが大会に出場した時などに、食べてもらえるわ。
「そうね、一度挑戦してみようかしら。ねえ、シュミナ。サンドウィッチとかも作れる?」
「ええ、簡単な物なら作れるわよ。今度一緒に作りましょう」
そう言ってにっこり微笑んだシュミナ。本当に頼りになるわ。
「ありがとう、シュミナ。また楽しみが増えたわね」
食堂へと向かうと、沢山の騎士団の人たちがいた。よく見ると、観客らしき人も食事をしている。
そう言えば、こういった食堂でご飯を食べるのは初めてだわ。なんだかドキドキするわね。
「ねえ、レオ。おすすめは何?私こういった場所は初めてだから、よくわからないの」
「ミシェル、俺と副隊長で買って来るから、ガーディアン嬢と一緒に席で待っていろ」
そう言うと、私とシュミナを席に案内してくれた。どうやら食券と言う物を購入し、料理を作ってもらう方式の様だ。
「それにしても随分混雑しているわね。購入するまでに少し時間が掛かるかもしれないわ」
確かにシュミナの言う通り、食券を買う為に長い列が出来ていた。
「ねえ、君たち可愛いね。どこの令嬢だい?」
私たちの隣のテーブルに座っていた騎士たち4人組に話しかけられた。ここで無視して、感じが悪いと言われては大変だ。
「こんにちは。私はミシェル・ミューティングと申します。こっちはシュミナ・ガーディアン嬢よ」
ついでにシュミナも紹介しておいた。
「ガーディアンと言えば、ディカルド副隊長の妹ですか?それにミューティングと言えば、公爵令嬢の?」
「「はい、そうです」」
シュミナと被ってしまった。
「へ~、凄いビッグな2人だな。俺たち男爵令息なのですが、お話させてもらってもいいですか?」
「ええ、構いませんよ」
私がそう答えると、嬉しそうに話しかけてくる4人。その時だった。
「お前たち、何俺の妹とその友達に絡んでいるんだ」
どうやら食券を買って戻ってきたディカルド様に声を掛けられ、慌てる4人。
「イヤ、可愛い令嬢が居たのでちょっと話したいなって!それにしても、2人共上級貴族なのに、いい子たちですね。俺たちみたいな下級貴族にも嫌な顔せず話してくれるし」
そう言って嬉しそうに微笑む騎士さん。
「当たり前だ。俺の妹と友達だぞ。俺の近くには、そんな傲慢な奴はいないかなら」
そう言って笑うディカルド様。”傲慢な奴はいない”か。その言葉を聞いて、なんだか嬉しくなった。
その後少し雑談した後、4人は去って行った。
その時ちょうど料理が出来た様で、私たちも食べ始めた。レオが選んでくれたのは、ビーフシチューとパン、サラダだ。
「レオ、このビーフシチューとっても美味しいわ。お肉も物凄く柔らかいし」
家のシェフのお料理も美味しいけれど、ここの食堂のお料理も美味しい。
「それはよかったよ。それよりミシェル、お前人参嫌いだから食べてやるよ」
そう言うと、レオが私のビーフシチューに入っていた人参を取り出し、自分の口に入れた。
「レオ、私今は好き嫌いなく食べる様にしているのよ。だから食べてもらわなくても良かったのに」
好き嫌いをすると、体に良くないのよ。そうレオに伝えた。
しばらく4人で雑談をしながら食べていたのだが
「クソ、おいミシェル。早く食べろ。ここは長居する場所じゃない!」
周りを見ながらなぜか機嫌が悪くなるレオ。一体どうしたのかしら?
食事が終わり、食堂を後にした私達。
「この後15歳以上の試合があるんだ。せっかくだから見て行くといい」
そう提案してくれたのは、ディカルド様だ。せっかくだから見て行こうか、そうシュミナと話していたのだが。
「ミシェル、他の奴の試合なんて見る必要ない。もう帰るぞ!ディカルド副隊長、俺はミシェルを連れて帰るので、ガーディアン嬢をお願いできますか?」
「ちょっとレオ、何言っているの?私はシュミナと来たのだから、シュミナと一緒に帰るわ」
そう抗議したのだが
「ミシェル、私はお兄様と帰るから大丈夫よ。それに、もう少し試合も見たいし。たまには兄妹水入らずなのもいいかなって思うし」
優しいシュミナの事だ。きっと私とレオを、2人きりにしてくれようとしているのだろう。
「ミシェル嬢、シュミナの事は心配しなくていい。今日は俺も実家に帰るつもりだからね」
そう言ってシュミナの肩を抱くディカルド様。
「それじゃあ、ディカルド副隊長。お願いします。ミシェル、行くぞ」
私の手を取り歩き出したレオ。
「シュミナ、ごめんね。また今度ね。ディカルド様も、今日はありがとうございました」
2人に挨拶をしてレオと一緒に歩く。
「ミシェル、お前はもう少し警戒心を持て!知らない男と話すな!誰にでも愛想を振りまくな!」
なぜか急に怒り出すレオ。今日のレオは怒ってばかりだ。
「でも感じの悪い令嬢だって思われるわ」
「別に思われてもいいだろう!それとも何か、男あさりをする為にここに来たのか!」
「そんな訳ないでしょう!レオの試合を見に来たのよ。どうしてそんな酷い事を言うの!」
レオの言葉に悲しくなって、ジュワっと涙が込み上げてきた。さすがに言い過ぎたと思ったのか
「ごめんミシェル。泣くなよ」
そう言って、アタフタしている。
その時だった。
「レオ、ここに居たんだね。あれ、その子は誰?」
声の方を向いた瞬間、一瞬にして体が凍り付く。そう、目の前に居たのは私の家族を陥れ、私とレオを殺した張本人。ユーグラテス第二王子だ。
「イヤ!」
恐怖からか、必死にレオの後ろに隠れた。怖い、怖い、怖い!どうして第二王子がここに居るの?
「ミシェル、どうしたんだ?」
レオの後ろにしがみついて離れない私を不審に思ったレオに、声を掛けられた。いけない、今回の生では初対面のはずだ。それなのに、こんな態度を取っていてはダメよね。
震える体を必死に奮い立たせ、ゆっくりとレオの背中から離れた。ただ、どうしてもレオから離れる事が出来ず、腕にがっつりしがみついている状態ではあるが。
「ユーグラテス、何でお前が居るんだよ!今日は来ないって言っていただろう?まあいい、こっちは俺の幼馴染のミシェルだ」
「ミシェル、こいつは騎士団の仲間で第二王子のユーグラテスだよ」
うん、知ってる!私たちを陥れた時よりは小さいが、間違いなく第二王子だ。そう思ったら震えが止まらない。さらにレオにギューッと抱き着いた。
「君がミューティング公爵家のミシェル嬢だね。噂とは随分違うね」
にっこり微笑む第二王子。1度目の生ではこの笑顔に惚れたが、今は恐怖でしかない。でも、私も挨拶をしないとね。
ゆっくりレオから離れ
「初めまして、ミシェル・ミューティングです。どうぞお見知りおきを」
カーテシーを決めると、すかさずレオにしがみつく。私の存在なんて、さっさと忘れて欲しいのが本音だ。
「どうしたんだよミシェル。そんなにくっ付いて。おいユーグラテス、お前ミシェルに何かしたのか。こんなにミシェルが怯えるなんて、初めてだぞ」
「僕たちは初対面だよ!ね、ミシェル嬢」
「はい、初対面です。申し訳ございません。少し体調が悪いみたいで、これで失礼いたします」
第二王子に頭を下げ、レオの腕を引っ張る。
「悪いなユーグラテス。それじゃあ」
そう言うと、会場の出口へと向かって歩き出した。その時、レオが私を抱きかかえた。
「レオ?」
「ギューッとくっ付かれたら歩きにくいからな。抱いて歩いた方が早い」
そう言って私を抱いたまま歩くレオ。
「重いでしょう?大丈夫よ、自分で歩ける」
そう言って降りようとしたのだが
「何言ってるんだよ。お前もっと食べろ!それに俺は鍛えているから、これくらいどうって事ないよ」
そう言って降ろしてくれなかった。
レオの胸、温かい。こうやってレオに抱かれていると、恐怖も少しづつ薄れていく。それにしても、まさかここで第二王子に会うなんて思わなかったわ。とにかく、これ以上第二王子に関わるのは絶対やめよう!
そう強く心に決めたミシェルであった。
次回、レオ視点です。
よろしくお願いしますm(__)m
 




