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死んでからデスゲームは勘弁してください!  作者: 弥生桃歌
第一章 変態グリムと孤独なドロシー
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第四話 テクニックブレイクスルー

 『生前、自身が所持していた成人向け玩具、書籍、映像作品を能力に変える』。

 これが俺の能力……。俺だけの特殊能力……。

 アホかぁぁぁぁ‼

 これでどうやって闘えっていうんだよ⁉ 相手がエロ本読んでる間に不意打ちでもしろっていうのか⁉

 もっと、雷を操るとか、透明になるとかそういうのがほしかった……。特殊能力って聞いて少し期待してたのに……。男子はそういうの一度は憧れるものだ。

 落ち着け俺。重要なのは『能力に変える』ということだ。ただ、本やDVDを出すだけの能力じゃない。

 俺は端末を読み直す。まだ、スワイプできる。能力のさらなる詳細だ!

 『能力使用後、使用時間の二倍の時間、一切のやる気を失う。なお、単位は秒で計算する』

 賢者タイムじゃねぇか! 危うく端末を叩きつけるところだった。

 マジでどう使うんだこの能力……。

「おーい、この辺にいるのはわかってるんだよ? 早く出ておいでぇ」

 木須(きず)の声が聞こえる。

 コーヒーカップの付近にいるのは分かるが、頭を上げたら即ゲームオーバーだ。

 しかし、このままでも、殺されるのは時間の問題だ。何か手を打たないと……。

「今度はかくれんぼかぁ。でも、無駄だよぉ。僕の能力は『赤き証(ラインマーカー)』っていってね、傷つけた相手の居場所が地図で分かるんだぁ」

 やっぱりだ。俺は最初に首に切り傷をつけられている。奴に俺の位置は筒抜けだ。

 能力の制限は傷つけることだけなのか? 効果範囲などがあれば、それを抜け出せれば、奴を撒ける可能性はあるか。

 しかし、仮にそんなものがあったとしても、また範囲に入ってしまえばすぐにバレてしまうだけだ。

 やはり、ここで何とかしなくてはならない。

「ここかなぁ?」

 きぃ、と奴がコーヒーカップの乗降口を開ける音がする。音からして、遠くのカップのようだ。

 何となくの範囲しか分からないのか?

 きぃ。

「ここもちがぁう」

 いや、地図アプリは拡大縮小ができる。コーヒーカップ全体に標準を合わせれば、どのカップにいるかなんてすぐに分かる。

 事実、さっきは何の迷いもなく、一直線に俺のもとへと来れていた。

 きぃ。

「見つからないなぁ」

 声が近くなってきている。

 こいつはわざと拡大せずに特定をコーヒーカップのどれかまでにしている。

 殺しを楽しむために……。

 もしかしたら、俺の背中はすでに、木須(きず)に見えているのかもしれない。

 だとしたら、とんだマヌケだ。

 今この瞬間にも、幸乃(ゆきの)が危険かもしれないのに!

 クソ、あの時、もっと俺がしっかりしていれば……。

 トラックに轢かれることも、こんなバカげたゲームに巻き込まれることもなかったのに……。

 …………。そうか、この能力。使えるぞ!

 『秘蔵のお宝(ベストコレクション)』、お披露目といこうか!

「ここだぁ!」

 木須(きず)が俺の潜むカップを覗き込んだ。

「あれ? 誰も……いない?」

 奴は端末をいじる。

「おかしいなぁ、このカップなんだけどなぁ……」

 こいつ、分かったうえで、焦らしていてのか。

 そのおかげで、こうして上手く騙せたようだが。

 俺はカップの椅子の下の隙間に寝そべり、曲線に沿って、ぴったりとくっついている。

 もちろん、それだけではすぐにバレてしまう。

 そこで、使ったのがマジックミラーだ。

 俺が持つAVの中にこれを使った作品がいくつかあった。

 椅子の下に沿ってマジックミラーを張ることで、コーヒーカップの一部を偽装した。

「……ジャミング?」

 よし、考えていた中でも、最高の勘違いだ。

 この事態を相手の端末を妨害する能力だと考えてくれれば、奴の能力は意味のないものになる。

 解除までいかなくても、一度奴が諦めてくれればそれでいい。

「いや、それはないかぁ。あの子の能力がジャミングなら、もっと遠くに行ったと見せかけるのがセオリーのはず。ニンゲンが足で簡単に移動できる距離にする必要がない……」

 クソッ! こいつ、意外に頭が冴える。逃げ足が異常に速いことを失念していた……。すなわち、逃走に長けていることに他ならない。

 奴は椅子に座り、頬杖をついた。

「となると、あの子の能力は透明化や幻覚、視覚に作用する能力かなぁ。それで、このカップで僕がいなくなるまで大人しく息をひそめている……。だとすると、厄介だなぁ。見えないんじゃ首が狙えない……」

 ほとんど、正解に近い……。

 そして、透明化。これも、成人向け作品にありがちなので、使えるのだろう。しかし、衣類が透明にできなかったり、液体をかけられた場合、すぐにバレてしまう。やみくもにナイフを振り回される可能性は木須(きず)の場合考えなくてよかった。

 賢者タイムのせいで、すぐに能力を切り替えることができないため、安全性の高いマジックミラーをとった。

「んん? 足ぃ?」

 っ⁉ 足がはみ出している⁉ コーヒーカップの椅子の下をぐるっと囲むようにマジックミラーを張っているから、そんなはずない。

 木須(きず)がしゃがみこみ、椅子の下を覗き込んだ。俺と目が合う。いや、合っているのはこちらだけだ。

 マジックミラー。それは片面は鏡、もう片面は窓のようになる性質を持っている。

 つまり、俺から、木須(きず)が見えるということは、奴には奴自身の姿が映しだされているということだ……。

「鏡かぁ。全然気が付かなかったよぉ」

 奴はお気に入りのおもちゃを見つけた時のような、無邪気な笑顔を浮かべている。

 座ったことで、視点が変わり、マジックミラーが奴の足を映してしまったのだ……。

「あははははははぁ」

 木須(きず)包丁を振りかぶる。鏡の強度ってどれくらいだっけ? 落としたら、割れる程度の強度しかない! 俺はつい先日、お気に入りの手鏡を割ってしまい嘆いていた幸乃(ゆきの)を思い出した。

 ガシャン! 大きな音をたてて、俺の防壁は崩れ去った……。

「みぃつけたぁ!」

 全身に鳥肌が立ったのが分かる。早く何とか。

 あぁ、もう詰みだ……。身体の力が抜けていく。

「あれぇ、もうあきらめちゃったぁ?」

 俺は木須(きず)に引きずり出され、椅子に座らせられた。

「大丈夫、安心してねぇ。一撃で殺すから。たぶん痛いのは一瞬だよぉ」

 あーあ、俺、ここで死ぬのかぁ。

 恋人のこと、守れなかったなぁ……。ごめん。幸乃(ゆきの)

 木須(きず)が包丁を振り上げている。

 とても楽しそうだ。

「待てーい! そこまでだ悪党め!」

 大声と共に、コーヒーカップが動き出す。

「何? 誰だか知らないけど、僕の邪魔をしないでほしいなぁ」

 俺たちは声のする方向を向いた。

 制御室の前には、赤いマントをたなびかせ、ショッキングピンクの全身タイツに青い手甲を身に着け、F1カーに乗るときに使うような顔全体が隠れる派手なヘルメットをかぶった男性が立っている。腰にはごっついベルトを巻いている。

 その姿は変身ヒーローを彷彿とさせるが、デザインは小さい子の落書きのようにダサい。

「私の名はタロウマン! 少年、私が来たからにはもう安心だ! なぜなら、私が正義から産まれたタロウマンだからだ!」

 タロウマンはよく分からない格好で動きを止めた。両手を横に広げて、左の足の裏を右足の太ももにつけて片足立ちしている。

 もしかして、あれが決めポーズなのか? すごいダサいぞ……。

「うわぁ……。変質者だぁ」

 木須(きず)がドン引きした顔で呟いた。

 ……お前が言うな。

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