第三話 開幕! ドキッ⁉ 初めての相手は殺人鬼?
気が付くと、俺は一人でメリーゴーランドの前に立っていた。
遊園地? 辺りを見回すと、様々なアトラクションがある。
来たことはないが、ジェットコースターを見て、ピンときた。
ここはヤマナシ県の有名な遊園地だ。テレビで見た時は、大勢の人々で賑わっていたが、今は人の気配はまるでなく、メリーゴーランドもくるくると寂しげに回っている。
握っていた端末をに触れると、電源が入るようになっていた。
俺はメリーゴーランドの柵に寄りかかりる。
早く、幸乃と合流しないと……。
端末は見た目通り、使い方もスマホと同じのようだ。入っているアプリは四つだけ。鎌、地図、ハート、ドクロのアイコンが並んでいる。カメラ機能はないようだ。
まぁ、内カメも外カメもこの端末にはついていないから当然か。
俺は手始めに地図マークのアプリを起動する。メリーゴーランドの前に緑の丸がピコピコと点滅している。これで、現在地が分かるのか。よくある地図アプリ同様、周りを見たり、拡大や縮小もできるようだ。
やはり、ここは遊園地だ。そして、自分の現在地しか分からないらしい。チームのメンバーだけでも分かれば、かなり楽に探せたんだが……。
ドクロはおそらくシニガミとの通話だろう。タップしても何の反応もない。
ハートをタップすると、『廻チーム』と表示され、俺たち五人の名前と顔が表示された。
『大出鎖矢、小津幸乃、九頭竜吟仁、渋木シオン、世美川りん』。
ん? どうして、鯨伏さんだけ、本名じゃないんだ?
スワイプすると、『百夢チーム』と表示され、五つの『???』が並んでいた。敵チームの情報も見れるのか、名前や顔は分からないようだけど……。
もう一度スワイプすると、『夜宵チーム』の情報が表示された。
「え?」
また五人分の?マークが並ぶと、思っていた俺は声を上げた。
『老川米造』。この名前だけは表示されていた。そして名前の上に大きく×印がつけられている。
「これって、もう死んじまったってことか……?」
開始十分も経ってないぞ⁉ 他のチームはもうぶつかっているってのか? まさか、幸乃も……。
俺は慌てて、鎌のアプリを起動する。おそらくこれが能力確認のはずだ。
能力名『秘蔵のお宝』。思った通りだ。
えーっと、詳細は『生前、自身の所持していた』。
「みーつけたっ」
顔を上げると、目の前に銀色に光る何かがあった。
「っ⁉」
俺はそれが包丁だと認識する前に、反射的にのけ反った。
そのままバランスを崩して、半回転しながら柵の内側に落ちる。
「いってぇ」
俺は後頭部を擦りながらも、素早く立ち上がる。今日はぶつけてばかりだ。
首にかすった程度の小さな切り傷があった。
こいつ、何のためらいもなく頸動脈を狙ったのか。
俺は柵越しに相手を見据える。
「木須透……」
最近、世間を騒がせている指名手配中の無差別殺人犯。
男でも女でも、大人でも子供でも、二ホン人でもガイコク人でも、ニンゲンであれば、誰でも殺す。
計画性も隠蔽工作も一切無いので、すぐに足がつく。
逃げ足が異常に速かったので、奇跡的に捕まっていなかった。
そんな奴が死んだ? 怨恨? 死刑だとしても早すぎる……。いや、今はそんなことどうでもいい。
この場をどうやって凌ぐかだ。
「僕のこと、知ってくれてたんだぁ。うれしいなぁ」
鈍く光る包丁をうっとりと眺めている。
木須のダッフルコートとジーパンは赤く染まっている。
こいつが老川さんを殺したのか? だとしたら、『百夢チーム』のニンゲンだ。
「お前のことを知らないニホン人なんていないだろ」
ここは遊園地だ。フードコートや露店を見れば、包丁なんて腐るほどあるだろう。
整備用の工具だって探せばあるはずだ。凶器には困らない。
「でも、悪い子だなぁ。避けなければ楽に死ねたのに……。あぁ、最高だ、あと十三人も殺せる。生き返れば、もっといっぱい殺せる」
こいつ、チームメンバーも殺す気か? 頭がおかしい。
殺されるという純粋な恐怖に、俺はその場から全速力で逃げ出した。
「鬼ごっこかぁ。無駄だよ。君はもう、僕から逃げられない」
そう言って、木須追って来ない。正しくは歩いて追ってきている。
奴との距離はどんどん離れていく。
殺人鬼と鬼ごっこ? すでに、シニガミの遊びに巻き込まれているのにそんなのはご免だ。
姿が見えなくなったところで俺は適当な茂みに隠れる。
「ナめてるのか? それとも、殺しを楽しんでいる?」
おそらく後者だ。ニュースの情報を信じるのなら、奴は急所しか狙わないはずだ。脳、首、心臓。一撃で死んでしまうような部分しか、傷つけない。仕留め損ねても必ず同じ場所を狙う。
つまり、俺は首を重点的に守ればいいわけだ。俺はコートのポケットに入れていたネックウォーマーをつけ、コートのチャックを閉めて、襟を立てる。
こんなもので刃物を防げるとは思えないが、無いよりマシだろう。
俺はそっと茂みから、周りを確認する。
「っ!」
端末を片手に木須が歩いている。
歩きスマホ、ダメ絶対。
まぁ、ここには十四人しかいないようなので、人にぶつかることはないだろうが……。
奴がパッとこちらを向く。俺は息を殺してばれないようにする。
奴は一直線にこちらに歩いてくる。好青年のようなさわやかな笑みを浮かべているが、それが恐怖を掻き立てる。
「かくれんぼなんて無駄無駄」
あれ? これ、バレてね?
「今度はちゃんと殺してあげる」
完全にバレている。勘? 否、何かの能力だ。血痕が足跡のように残るほど、出血はしていないし、走っていたのはコンクリの道だ。足跡なんて残らない。
俺は茂みをそのまま、突っ切り反対側の道に出る。
脇目で見ると、やはり奴は追っては来ず、端末を見ている。
俺はコーヒーカップを見つけ、中心近くのカップにしゃがんで隠れる。
おそらく、俺の居場所はすでにバレている。木須の行動から予測するに、おそらく奴の地図には俺の位置が表示されているのだろう。
能力発動のきっかけも効果範囲も分からないこの状況で、幸乃に会うのは危険すぎる。
いつ爆発するか分からない時限爆弾を抱えたまま、会いに行くようなものだ。
今は、木須の能力を解除するのが最優先だ。
奴は大量殺人犯だ。殺されそうになったニンゲンの行動は熟知しているだろう。無策で闘っても殺されるだけだ。
となると、能力だ。これで上手く奴の動きを止める。
時間がない。俺は急いで能力を確認する。
能力名『秘蔵のお宝』。『生前、自身が所持していた成人向け玩具、書籍、映像作品を能力に変える』。
はぁぁぁぁぁぁぁ!?