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月下の亡霊、異世界に立つ  作者: 旧世代の遺物
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7/ 破滅の七星

 不定期更新です。

 



    /1



 ──怒号、怯声、勝鬨。  

 種々雑多なそれは幾重にも重なり合い、草原に吹き付ける風の声も陽気な鳥の囀りも悉く搔き消し塗り潰していく。

 蒼く茂る草原は紅く彩られ、花々も同じく色づいていく。

 無限の草原に倒れ伏す無数の屍。その全てが苦悶に満ちた相を浮かべ、山の如く折り重なっている。

 ──その地獄と形容する他ない光景。それを人は戦場と呼び、ある者はそれを尊び、ある者はそれを畏れた。


 それは確かに戦場ではある。だが、それはあまりにも一方的すぎた。

 響き渡る悲鳴と渦巻く混沌。

 それは戦場という対等の殺し合いの場では有り得ないほど弱々しく、まさしく蹂躙される者の声。

 これは既に戦場に非ず。

 これこそを──歴史は"虐殺"と記すのである。


 ──その数日前。



 ◇    ◇    ◇



 旧帝国領ケルサス王国首都ユビキタス。その王宮の玉座にて大王は鎮座していた。

 ……その足元に転がる、見るも無惨な姿になった首をまっすぐに見据えながら。


 首は眼をくり貫かれ、耳と鼻を削ぎ落とされており、さらに皮を剥がされている所為で元がどのような顔立ちであったのかすら判別することができなくなっている。

 トドメとばかりに耳と鼻の穴には鉛が詰められており、生きたまま溶けた鉛を流し込まれた痕跡が見て取れる。

 その直視に堪えぬ凄惨な有様を晒す首は──その玉座に鎮座する大王の使者の物であった。

 大王はそれを見て──惜しむように息をつく。


「……ふむ、これが返答ということか。これは困ったことになりそうだな、諸君」


 大王──キルデリックは何ら憤ることなく、平生の冷徹さを保ったまま当然の問いを投げ掛ける。

 それに真っ先に対応したのはその側に控える宮宰(マヨルドムス)と呼ばれる男であった。


「然り。これは我らへの明確な敵対行為なり。ならば──取るべき選択は誰の目にも明らかであろう。そうだろう? "七星候"よ」


 王の下に集う諸侯──その内の"七星候"と呼ばれた七人は声を出すことなく、深く頷くことで答えを返した。

 

 七星候──キルデリックが王として戴冠される遥か以前、一人の戦士でしかなかった頃から従士として従い、共に地獄の戦場を戦い抜いた、大王の義兄弟である七人。

 その全員が星に因んだ称号を名乗っており、その人の域を逸脱した武力と決して崩れぬ絶対の忠誠から国内外を問わず畏怖と情景を集めており、一度敵として出逢ってしまえばそれがその者の最期であるという──。


「さて、これで我らが同胞が一人奪われたということだが……。お前達はどうしたい?」

「──無論、答えるまでもありませぬ。宮宰殿の言う通りでございます、我が(フレーア)よ」


 それに答えたのはキルデリックに近い年頃の、年相応の落ち着きを見せながらも圧倒的な強者の匂いを醸し出す壮年の男。

 彼こそは七人の中の最古参にして彼らの義兄、キルデリックが最も信を置くケルサス第二の戦士である。

 その名も──七星候第一の星、"凶星のエオウルフ"と言った。


「あのクラウィス族は小規模なれど凶暴な部族。寛大にも陛下は何度も旗下に入れようとして参りましたが……やはり意志は変わらぬようですな」


 キルデリックは返答に対し白い顎髭を触りながら思案する。

 それに対しもう一人の男が口を挟む。


「これは天意でありましょう。今こそ奴らを討ち果たし、積年の遺恨を晴らすのです」


 彼もまた七星候、その第二の星。

 その名は"極星のバルタザール"。

 こと単純な武力においては比肩する者のない、まさしく無双の勇士である。


「エオウルフとバルタザールはああ言うが……お前達はどうだ?」


 キルデリックは更に残りの七星候に問い質す。

 彼らは一人一人、素早く順々に答えを返す。


「……同上」

「異論はない。兄者と同意見だ」

「俺もだな」

「そうですねぇ。彼らは然るべき報いを受けなくてはいけませんねぇ」

「ああ? 殺り合うに決まってんだろ。オレァ戦えりゃ何でもいいぜ。ってか殺し合いに理由なんかいらねぇよ」


 寡黙にして剛健なる"暁星のアルブレヒト"。

 慎重にして迅速なる"彗星のグレゴリウス"。

 鷹揚にして磊落なる"巨星のヴィルヘルム"。

 狡猾にして冷徹なる"群星のフリードリヒ"。

 癇性にして狂暴なる"流星のレオパルド"。


 彼らは口々に全く同様の意見を述べる。

 宮宰(マヨルドムス)が強く押したのもあって、キルデリックは迅速に決断を下した。


「良いだろう。我らの威信を示す好機、これを逃す手はない……エオウルフ、バルタザールよ」

「はっ」

「余の"葬送隊"を貸す。加えて遺産(ラーフ)の開帳も許す。……容赦は要らぬ、悉く灰燼と化せ」


 大王は二人に命じながら、傍らの宮宰を見遣る。

 彼は静かに頷き、大王の提案に賛同した。


 ここに──彼らの敵の運命は定まった。

 後世の歴史家は、彼の日を戦いとは記さないだろう。

 そう、あれこそがまさしく大量殺戮と呼ばれる類のものなのだから──。

 


 今回は短編です。

 大王側の幹部達の顔見せ回ですね。

 名前を考えるのに難儀しました……。

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