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第2話 邪悪なるクソネコ

「ニャンコっすね。ケガしてるんスか?」


大きな音の正体が猫とわかって俺たちは安心する。うーん、しかし大きいな。その猫は普通の猫の2倍近くありそうだった。体の模様もなんだか変だ。珍種かな。

この時はまだそんなことを思っていた。


「あいつに近づくなよ?猫でも変な病気持ってるかもしれんからな。それに…って聞けよオイ」


俺の忠告を聞かずに瑛子は猫の方に近づいていく。


「可哀想じゃないッスかニャンコ。捕まえて病院つれてきますよ。触らせてくれるかなあ」


全く人の話を聞かない奴だ。しょうがないな。

仕方ないので俺も一緒に猫らしい生物の元に歩み寄る。


「ウシャァァァァァァァァ‼︎」


しかし俺たちを見咎めると猫は鋭い眼光を飛ばし威嚇体制に入った。

あと3メートルくらいで触れそうだったが。


「あぁ、やっぱ無理だなこれ。ほっとこうぜ。だいたい猫ってよお、触らせてもくれないじゃねえか」


「でもすっごい血が出てるッスよ。可哀想」


確かにポタポタと赤黒い血が出ているようだ。


「弱ってきたら捕まえられるんじゃねえの?知らんけど」


面倒になってきた俺は適当に応える。正直、猫はあまり好きじゃないのだ。

しかし鋭い眼光で威嚇してくる猫に向かって瑛子は低姿勢を取りながらゆっくり近づいていく。


「ほーら猫ちゃん猫ちゃん、こわくないっスよおー。病院に行きましょうね〜」


「グゥルルルルルルルル……」


おいおい牙を剥いて低い唸り声あげてんじゃねえか。やっぱヤバイってそいつ。

瑛子の肩を掴んで引き戻そうとした時だった。


「フシャァァァァァ‼︎」


猫が爪を立てて瑛子の顔に向かって飛びかかってきた。うおう、予想以上に凶暴なアクションを取りやがる。言わんこっちゃないぜ。


「エイコ!」


咄嗟に瑛子の肩を抱いて左に向かって倒れた、と思う。意図したより勢いがついてしまった。俺たちはそのままゴロゴロと地面を転がる。そして運悪く俺たちの転がる方向には深い段差と窪みがあり2人ともそこへ向かって落ちていった。視界がブレてよくわからなかったが。この世界へやって来る直前の出来事はそんな流れだったと思う。あまりよくは覚えていないけど。












「センパイ、センパイ!大丈夫っスか⁉︎」


瑛子の声で目を覚ます。目の前には心配そうな後輩の顔があった。俺はどうやら気絶していたらしい。


「…うー、いてえ。おい瑛子大丈夫か?怪我はないか?」


身を起こして瑛子の方を確認する。特に顔。うん、良かった傷はないようだ。しかし結構ぶち転がしちまったな。すまん。

安心した表情で瑛子は微笑を見せた。


「私は大丈夫みたいッスよ。どこも傷はないッス」


「そうか、なら良かった」


自分の痛む頭を押さえる。地面に打っちまったか。こぶはできてないみたいだな。血も出てないようだ。


「センパイが私を抱いてくれたからっスね」


「……その言い方やめろ」


咄嗟とは言えこいつの小さい体を包みつつ地面を転がりまくった気がする。見たところ大丈夫そうだな心配して損したぜ。

ん…?


「お前…?なんだその格好」


余りに違和感がありすぎたからか、それですぐには意識にのぼらなかったのだろうか。よく見ると瑛子は白く輝く中世ヨーロッパ風の鎧をその身に纏っていた。

頭には普段あまり付けない髪飾りを。そして赤い外套と膝くらいまでの長さの赤いスカートを身につけていた。生地も良さそうでなんだかかっこいい。ゲームなんかで見たことがある格好だ。


「えっ…?うわ、なんだこれ⁉︎」


自分でも気づかなかったのか。


「でもセンパイもっスよ⁈よく見てくださいっス!」


「うおっ⁉︎マジかよこれ!」


俺も自分の体をよく見ると同様に中世風の鎧と服を着ていた。一体どうなってんだ?

その鈍色に光る鎧はなんだか瑛子のものに比べると貧相なのは気のせいだろうか。


「しかもこんな物まであるっス!なんだコレ!抜いてみよっと」


「ちょっ、あぶねーぞエイコ、やめとけよ」


瑛子は腰に差さった剣に気づくとオモチャでも弄るかのように一気にそれを鞘から抜き放った。


「…おお。本格的っスねー。まるで本物みたいッス」


その剣の刀身は西洋風の双刃で木漏れ日の薄い光を反射して白銀色の鋭い光を放っていた。刀剣のことなんてよく分からないが美しい刀身だった。

俺の腰にも剣が差さっていたので恐る恐る抜刀してみる。


「センパイも持ってたんスね。どんなんスか」


俺の剣も同じく双刃だったが瑛子のものより細く刀身もなんだか見劣りする。着ている物といい不公平だ。なんなんだ?この差は。


「おおー……どっちも本物かなあ?ちょっと枝でも試し斬りしてみないッスか?」


危ないからと言う俺の忠告も聞かずに瑛子はそこらの適当な枝葉を見繕い、剣を構えた。瑛子には剣道を始めとした格闘技経験は無いはずだったが、なんだか達人のように堂に行った構えだった。


「シャラァァァ‼︎」


掛け声と共に剣を振り下ろすと枝葉がスパッときれいに斬れた。間違いない、本物だ。


「えっ……え、なにこれ?ドン引きっスよなにこれ」


瑛子が戸惑っていた。無理もない、おもちゃだと思ってた剣が真剣だったんだからな。


「だーかーらぁー⁉︎あぶねえっつっただろ?どこか斬ってないかエイコ?」


当然だが真剣ってのは素人が振り回すと危ない。自分で自分の身を斬ってしまうってこともあるそうだ。


「う、うん大丈夫っスけど…もうなんかわけがわかんないッス」


そう言って剣を持ったまま地面にへたり込んだ。びっくりしたんだろう。

ま、ゆっくり腰を下ろして落ち着いて考えよう。俺ももう一度地面に座る。

よくよく周りを観察してみるとさっきまでいた林とは違う場所にいるようだ。木の配置やら種類が違う。同じ青々とした草木が広がっていたから気づかなかった。決定的なのはすぐそこにあるはずの池がどこにもないことだ。確かに結構地面を転がったがせいぜい十数メートルくらいだろう。急に池が消えるなんてそんなことがあり得るだろうか。

理解できない状況を頭の中で纏めていると女のものらしい悲鳴が聞こえてきた。近い。

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