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第1話 荒ぶる草薙

剣と魔法の世界を描いてみたくて描きました。

目に留めて読もうと思って頂いた方どうぞよろしくお願いします。

翠々と繁った草木が視界を遮る。日の光もうっすらとしか差し込まない。さっきからもうどれくらい歩いただろうか。

たまに出てくる巨大なモグラやトカゲを薙ぎ払い俺たちは道無き道を往く。


「センパイ、マリさん大丈夫ッスか?休みますか?」


弾むような声で先頭を行く女の子が振り返る。元気だなあお前。

主に薙ぎ払ってるのはこいつ。アホ毛付きのショートヘアを靡かせ悠々と先頭を歩く小柄な女子は俺の後輩である那月瑛子ナツキエイコだ。


「……いや大丈夫だ。うん大丈夫。そう、俺は大丈夫なんだけどおぉーー⁉︎お前より先にバテるわけないしぃぃ⁈でぇーもぉー?糸井さんが疲れたんじゃねえかなあー⁈疲れたよね糸井さん?休もうか?うん休もう?」



自己紹介が遅れたが、俺の名前は草薙明信クサナギアキノブ。大崖淵高校2年生でサッカー部のエースだ。おっと「元」サッカー部だったな。

情けない話だが先頭を行く瑛子より俺のほうが先にバテてきたようだ。体裁を繕うためにもう1人の女の子のために休むという言い訳をつくる。うん、情け無い限りだな。俺。サッカー部のエースで次世代の日本代表エースになるであろう俺なのに。サッカーむっちゃうまいのに。俺。だってこの森の道すっげえガタガタで歩きにくいんだもん。


「……ええ、そうですね。少し休みたいです」


汗を拭い疲れた顔で長い黒髪を肩まで伸ばした女の子がそう答える。ああ、ごめんななんか。

この顔立ちが整ったお嬢様風の女の子は糸井真里イトイマリ。高校3年で俺より1つ上だそうだが俺たちと学校は違うらしい。この森で先ほど一緒に迷子になって同行することになった。


「よっしゃ、休みますか。水も何もないッスけど後で私が探してくるッスからね」


少し先頭を歩いていた瑛子が戻ってきた。

この妙な森に迷い込んでからもうどれくらい歩き続けたか分からない。何匹妙なモグラやらトカゲやらを撃退したかも。それでもこいつは元気だ。

まるで中世ヨーロッパ風の立派な鎧、そしてとんでもなく斬れる剣を身につけたこいつ、那月瑛子ナツキエイコは勇者であり俺たちは先ほどからどうやら異世界に迷い込んでしまったらしい。











「じゃあはっきり言ってやんよ‼︎このバカどもが!お前らは下手くそ!この下手くそ!バーカ!ヴァーカ‼︎」


「あぁ⁉︎もっかい言ってみろよ!くさなぎ!」


そろそろ梅雨も明けようという7月半ば。

ここは大崖淵高校サッカー部のグラウンド横の部室。近所の高校との練習試合が終わってから暫く、部室は修羅場へと化そうとしていた。

スコアボードには「5-2」と書かれている。試合は俺たちのボロ負けだった。2点は俺の得点。惨敗の原因は分かってる。1年早く生まれただけで先輩と名乗り威張りくさっているこの下手くそどものせいだ。


「何遍でも言ってやるよ!お前らはボールを持ったサル‼︎ついでに顔も不細工‼︎どいつもこいつも‼︎俺と違って!帰り際相手が鼻で笑ってたぞ⁉︎このサッカーIQ小学生どもが‼︎」


「くさなぎぃ!てめぇ‼︎」


こいつらにはチームプレーという文字が無い。ボールを持ったら全員が前を向いて走る『だけ』。リスク度外視で。それでも成果があるならいい。だがどいつもこいつもド下手でおまけにアホなんでシュートまで持っていけないし、例え撃ててもゴールポストにすら当たらない。まるで小学生が昼休みにやるサッカーである。

まあ下手くそなら下手くそなりに頑張ってるならそれでいい。しかしこんなボロ負けの試合の後だというのに誰1人悔しそうな顔を見せず後片付けを1、2年に任せて携帯ゲームに興じている姿に俺は業を煮やしてブチ切れた。


「休日の朝からわざわざこんなクソチームの相手してくれる向こうの気持ち考えたことあるの⁇バカなの?死ぬの⁉︎それと後片付けくらいてめえらも手伝え!下手くそども!プグゥッ⁉︎」


真っ赤になったサルに顔を殴られ俺はよろめく。


「くさなぎぃ!てめぇ締めてやんよ!調子乗んなよたかがユース崩れが!」


この俺の顔を殴りやがった。このサルが。


「ちょっと、やめろ葛西!暴力はまずいって」


「うるせえ!もう我慢ならねえ!このクソガキ教育してや……ブゲェッ⁉︎」


俺はかかってきたブタザルの顎に頭突きをかました。それから間髪入れずシャツの襟を掴み床に転がして馬乗りになってやった。


「詫びを入れろ!このブタァ‼︎」


「てめぇぇぇ‼︎くさなぎぃぃぃ!ぶっころすぞてめぇ‼︎」


サッカーセンスも無ければボキャブラリーも無いサルだ。この後に及んで謝罪する気も無いらしい。

俺は遠慮なく鼻面とこめかみを思い切り殴ってやった。


「ちょっ…やめろってぇ!くさなぎぃ!」


慌てて周りの連中が俺とクソザルを引き剥がしにかかる。ちっ、ここまでか。もう一発殴っとこう。


「クサナギィィィィィ‼︎てめぇぇぇぇぇ!」


葛西とかいうクソザルは周りの連中に羽交締めにされながらも尚、俺に向かってこようとしていた。ふんバカめ。

お互いに押さえつけられながらも俺たちは睨み合う。


「落ち着けよお前ら。何やってんだよ、たかがサッカーで停学になんぞ」


俺たちを抑えてる1人がそんなことを言った。俺たちを宥めようとしたんだろう。しかしその一言は俺に退部を決意させるには充分なものだった。


「えっおい草薙⁉︎なんて力だよお前!やめろおい!ぐあっ‼︎」


俺は数人に羽交締めされていた腕を無理やり抜くと素早く床に転がり部室から脱出する。もうこんなところに用は無い。


「おれここやめるわ。あばよ!へたくそども!」


「クッサナギィィィィィィィ‼︎‼︎」


まだなんか言ってやがったが俺は鼻くそをほじりサルどもに向けてポンと投げ捨てるとさっさとその場を後にした。










学校から歩いて約10分。とある公園の裏の林の「立ち入り禁止」と書いてある看板とロープを無視して進むと魚も棲んでいる池がある。無造作に藪の中に放置してある古びた釣竿は俺のものだ。

同様に放置していたスコップで適当に土を掘り起こしミミズを釣り針に巻きつけると準備完了。

さて、ひと釣り行こうかというところでガサガサと何かの物音が聞こえる。


「センパーイ。まーたここッスかあ〜。ほんとここ好きッスねえ」


弾むような女の声の主は振り返らなくてもわかる。こんなところに来るのは俺の他にはあの女しかいないからだ。


「なんだよエイコ。俺は1人で釣りしたいんだよ、帰れよ」


那月瑛子。こいつは俺の行くところにはどこへでもついてくる。


「もう〜……女の子にそんな返しするのってセンパイだけッスよ?根は陰キャっすよねえセンパイ」


「うるせえよ、何しに来たんだよ。帰れって」


振り返ると癖のあるショートヘアを風に靡かせた小柄な女の子が立っていた。青いブラウスと黒いミニスカートはこんな林の中の散歩には適していない。


「ひどいなあ…今日は試合見に行ったんすよ?でも部室行ったらセンパイもういなかったから」


「…ああ、アホども泣いてただろ?ざまあねえわ」


「いやいや、事情聞きましたけど無茶しますねえー。さすがセンパイッス」


ふん、何を聞いたか知らんが降りかかる火の粉を払っただけだ。何が悪い。

俺は構わず釣り針を池に投げ入れ座り込んだ。


「鼻くそ投げて退部ってなんスかそれ?動かない漫画家とジャンケン勝負でもしに行くんスかぁ?相変わらずロックな生き方してますね〜」


クスクスと笑いながら俺を揶揄う。


「なんだよそれ。俺はここで釣りをしてるだけだ。何もねえぞ、帰れよ」


4、5年くらいの付き合いではあるが相変わらずこいつのノリはよくわからない。


「ねぇセンパイ。本当にサッカーやめちゃうんスか?勿体ないすよ。ずっとやってきたのに」


うるせえなあ。後で考えるよ後で。


「……あんな下手くそどもとやってられるかよ」


そうあんなバカどもと。2度と。


「センパーイ……そんなだから1人も友達いないんスよ」


余計なお世話だ。


「……私しか」


ボソッと何かつぶやいたようだが最後はよく聞き取れなかった。


暫く風に細かく揺れる水面を眺めながら釣りを続ける。何度か針には食いついたんだがバラしてしまった。食いつきが浅いな。そろそろ新しい釣り針を買おうか。

横にちょこんと座った瑛子がバラす度にクスクスと笑う。


「やっぱり今日はついてないんスよセンパイ。どっか行きましょうよお、ネズミの国とかネズミの国とかネズミの国とか」


そんなに行きたいのかネズミの国。


「また今度な」


こういう時はさらっと流すのが俺流だ。それに俺は人混みが好きじゃない。


「…そんなこと言って一度も連れて行ってくれたことないじゃないスかぁ〜〜」


瑛子は不満そうに頬を膨らませ勢いをつけて仰向けに寝転んだ。

いやいや付き合ってる奴らが行くところだからなそこ。そんな突っ込みを入れるとなんだか気まずくなるから言わないけど。


『ゴソゴソゴソゴソ』


急に林の奥から一際大きい何かの物音が聞こえてきた。野生の獣だろうか?まずいな。最近は街中でも野生の獣による事故が増えてきている。

俺は釣り針を引き上げ立ち上がった。


「エイコ、気をつけろ。後ろに下がれ」


瑛子は素直に俺の言葉に従い、起き上がると2、3歩後ろに下がった。

何だろう。こんなことは初めてだ。

ゆっくりと物音を立てて何かが近づいてくる。

固唾を飲んで音を立てながら揺れる草木の方を見ていると毛むくじゃらの何かが草叢から出てきた。

よく見ると少し大きめの猫のようで、足を引き摺りどこかから血を流しているようだった。

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