ハンブン
国境を越えることは出来ない
国境を越えようとすると
監視している警備員達に見つかり
すぐさま射殺される
ある時、魔法使いが現れて
国民の半分に魔法をかけた
ある者は豚のような人間になって
ある者は少女の心を持った老人になって
ある者は犬のようにワンワンと走り回るようになった
国民はパニックになり、国外に逃げ出そうとしたが
魔法使いに魔法をかけられた政府は
逃げ出すものを皆殺しにした
死体を見ながら
魔法使いは意地悪く笑っていった
「いいかい、お前たちは一生この場所で生きていくんだ。私はその姿をみてるからね
逃げたら殺す」と
そして、いつの間にか
最初からいなかったように
どこかへ消えていった
その後
この国は孤立され
他の国から忘れさられる魔法も
かけられた
国民に
残されたものは絶望と、
魔法をかけられたハンブンの人間と
魔法をかけられていないハンブンの人間だった
最初こそは協力しあっていた人間たちだったが
いつしか秩序は崩れ始め
残された半分のまともな人間は
魔法をかけられた半分の人間を
人間として扱わなくなっていった
犬のような人間を犬のように扱い
豚のような人間をからかって笑った
見世物小屋にして商売を始める
連中も現れ、
その姿を嘲り、差別した
老人の姿をした少女は泣きながら
「私たちがなにしたってゆうの?」と
悲痛な叫びをあげ、
「いつかきっと、誰かが助けてくれるはずさ」と少女に諭したかった
豚の青年は
ブーブーと鳴くことしか出来ない
自分を呪った
そして5年たった
5年前の平和な国は
消え去り、スラム街のような
変わり果てた国になっていた
そんな
荒廃したこの国に
魔法使いは
再び姿を見せた
魔法をかけられた半分の人間たちは
驚嘆をあげて
泣きながら魔法使いに懇願した
「どうか私たちを元に戻してください」
「どうか私たちを元に戻してください」
と
その滑稽な姿を見ながら愉悦に浸る
魔法使いは意地悪く
ヒッヒッと笑いこういった
「そうだねぇ、
そろそろ戻してあげてもいいけど
元に戻すには条件があるんだよ」と呟いて
あたりを見回し
「残りの半分の人間たちに魔法をかけていいかい?そうすれば元に戻してあげるよ」と
悪魔の取引を提案してきた
この話を聞いて魔法をかけられていない人間たちは真っ青になり
同じように泣きながら懇願し始めた
「やめてください!助けてください
」
「お願いします」
「なんでもします許してください」と
それを聞いて魔法使いは
「どうしようかねぇ?」と嫌らしく笑い
魔法をかけられた人間たちに答えを委ねる
魔法をかけられた人間たちの答えは決まっていた
今まで、虐げられてきた数々の恨み辛みが蘇り、気がつくと
「コイツらに魔法をかけてくれ!!」と
叫んでいた
その言葉を聞き
魔法使いは満足したのか
「そうかい。じゃあそうするよ」といい
人間たちは
入れ替わりになった
それからの
魔法を解けた人間たちの復讐は壮絶だった
あの老人の少女も、あの豚の青年も
あの犬も
全員が人間の心をなくし
悪魔にとりつかれていた
もはや、この国には人間と呼べるようなものがいなくなっていた
人間と呼べない見た目の、
人間のようなものと
見た目が人間の、
人間とは思えない心を、
持ったもののどちらかだった