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赤瓦

種田たねだ 愛美まなみ


双子の姉。理学部地球惑星システム学科4年生。

《治癒の暗示》を持つ。おっぱいが大きい。



種田たねだ 美波みなみ


双子の妹。理学部数学科4年生。バレー部所属。

クール系美人。たいへん気が強く、姉に近づく男を嫌っている。



愛美さんの車に乗って俺達が連れてこられたのは、赤瓦の一軒家だった。

ここS町は何故だか、屋根に赤い瓦をつけた家が多い。

それはこの地域全般が贔屓している球団の色だから、とH大受験時に乗り合わせたタクシーの運転手は笑いながら言っていた。

本当のところは、赤瓦がS町の気候に適したモノだから、らしい。

やけに立派な玄関を前にして、俺は大学の授業で知りえたことを思い出していた。

「何してるのー?早く入ってきて」

先に家に入っていた愛美さんの声を聞いて、ようやく俺は足を踏み出した。


この家はオカルト秘境探検部が所有している家だそうだ。

道中、車を運転する愛美さんが自慢していた。

確かに立派な一軒家だった。

築20年ほどらしいが、中はきれいで驚くほど広かった。

愛美さんは俺を奥の座敷へと案内してくれた。

意識のない夢子を布団に寝かせるためだ。


愛美さんがふすまを開けると、畳のどこか懐かしい香りが広がった。

「私たちもよく泊まりにくるんだよ」

愛美さんが慣れた手つきで押し入れから布団を出し、畳にひいた。

その白牡丹柄の布団に夢子を横たわらせた。

目を閉じた彼女の眼尻には、涙のつたった跡があった。

夢子が静かに寝息をたてていることを確認した俺と愛美さんは、美波さんの待つ居間に向かった。


居間も畳がしっかりと張られていたが、平気でソファーや本棚などの家具が置かれていた。

美波さんはソファーに座り、買い物袋から買ってきたジュース類を取り出していた。

「狛田君もソファーに座って。ほら」

愛美さんは美波さんとの間をわざと空けて俺に呼びかけた。

美波さんは俺が反応する前に、一早くその間をつめた。

俺は申し訳ないようにソファーの端に座った。


「狛田君、お金に困ってるんだよね。ウチのバーの他にも色んなバイトをしてるって店長に聞いたよ」

お菓子をつまみながら愛美さんはそう切り出した。

「もし良かったらだけど、ここに住んでみるのはどうかな。もちろんオカルト秘境探検部のサークルに入ってくれること前提だけど」

「歴代のサークルの先輩の中には、本当にここに住んでいた人もいるらしいよ」

金のない俺にとっては願ってもない提案だった。

「そう・・・ですね。でも、今住み始めたところも安くで住まわせてもらっているので、あと1年ぐらいはちゃんとそこにいたいなって」

家賃の交渉に応じてくれた家主の方のためにも、俺は断らざるを得なかった。

「そっか・・・でもっ!サークルに入れば、ここにたまに来て何泊かしていけるよ?」

「ここは光熱費、水道料、その他諸々・・・もちろん家賃もないから!出費を抑えられると思うよ!」

愛美さんは必死に俺を説得してくれているようだ。

「サークルは・・・忙しくなければ入ってもいいかなって思ってます。この家もたまに利用できるのであればしたいですし」

夢子を一人にはしておけないですし、と俺は続けた。


「ありがとーっ。狛田君っていい子だね。夢子ちゃんの心配もして」

「彼には何か不純な動機があるのかもしれないですけど」

俺への評価が上がった愛美さんに対し、美波さんは相変わらず冷たい。

「先ほども、『儀式』を行っている姉さんと夢子さんを見て興奮していらしたようです」

「違いますよ!」慌てて俺は訂正に入った。

「えぇー!狛田君、変態さんだねー」愛美さんは笑いながら俺をからかった。

「夢子さんをだっこしている間も、何かよからぬ事を考えていたのではないですか?彼女の重み、肌、吐息を感じることでさぞかし劣情が加速したのですね」

「考えすぎですって!それに夢子の胸なんか、お姉さんに比べ・・・」

比べたら、と俺が言おうとした瞬間、それまでクールだった美波さんが豹変した。


「姉さんの胸を見るなっ!!」

美波さんの叫び声が、俺達しかいない家に響く。

俺はつららに貫かれたような衝撃を受けた。

「・・・えーっと。狛田君?そんなこと考えてないよね?・・・ほら、大丈夫。でもダメだよ?サークル内での不純異性交遊は禁じますからね。それと、美波ちゃんもありがとうね」

美波さんは愛美さんの声で平静を取り戻したようだ。

しかし、彼女はぶつぶつと「・・・これだから男は・・・」と言っていた。


冷え切った空気が居間に流れていた。

愛美さんはそれでも明るく和ませようとしてくれた。

実際に彼女がいるだけで、俺はリラックスしていた。

美波さんも姉がいるからこそ、この場にいてくれるのだろう。

愛美さんは彼女自身の秘密を語ってくれた。

彼女は《暗示あんじ》と呼ばれる能力を持っているらしい。


「狛田君が犬に嫌われる体質を持っているように、私にもちょっと不思議な体質があってね。他者を安心させる力があるんだって」

俺と比べると段違いに有用な体質だ。素直に羨ましい。

「これを教えてくれたのは、同じ《暗示能力》を持つ人に大学で出会ったからなんだけど」

工藤流布くどうるふ・・・あんな男の言うことが信じられるというのですか」

「私たちが困っていた時に助けてくれたじゃない」

愛美さんの言葉で美波さんは黙ってしまった。


「誰でも能力を開花させる可能性があって、確率としては数千人に1人ぐらいなんだって」

「主に感受性が強い人が最もその可能性が高くて、能力の発現に気付かない人もいるらしいよ」

愛美さんの話はすべて工藤流布という人物から聞いた話のようだ。

「感受性が強いというのは、あの『儀式』でも必要なことで、夢子ちゃんを選んだのはそのためだったんだ」

「私の能力は大学に入学するまでは、ほんとにささいな安心感を相手にもたらすぐらいだったんだけど」

「『儀式』を終えた後から能力が強化されたみたいで、人の肉体的な回復を早めることもできるようになったんだ」

「工藤さんが言うには、私の能力は《治癒》、《治癒の暗示》」


「工藤さんは『儀式』と能力の関連性を独自に調べたりしてるみたい。詳しく聞きたかったら言ってね。工藤さんの連絡先を教えるよ」

「あいつはずっと大学にいますからね。もう何年生になるんでしょうか」

美波さんはあまりこの話がしたくないようだった。

「だからね。夢子ちゃんもこれから何かしらの《暗示能力》に目覚めるかもしれない」

「能力によりけりだけど、悪用できるモノもあるから、狛田君も気を付けて見てやってね」

「一個前の先輩は《疑念の暗示》といって、人の話が信じられなくなる能力でね。ギャンブルとか賭けに使ってたみたいだよ・・・もちろん、限度はわきまえていたそうだけど・・・」

愛美さんはそのままこのサークルでの思い出を話してくれた。


これ以上空気が悪くならないようにと、愛美さんは気をきかせて早く帰ってくれた。

この家の鍵を渡された俺は、居間で一人、夢子が起きるのを待った。

ここは予想以上に快適で居心地が良かった。

雰囲気だけなら実家のそれにかなり似ていた。いやあんな実家より、いいかもしれない。

俺はソファーにだらしなく腰かけ、自分の下宿には無いテレビを眺めた。


サークルに入った俺たちがやるべきことは、この家を管理することだと愛美さんは言った。

簡単に言えば、たまに来て掃除をすればいい、ただそれだけだと言った。

卒業年次になったら、新入生の加入活動をする。

目立った活動は本当にそれだけのようだった。

やりたかったら、サークルらしいことをしてもいいらしい。

実際に過去のサークルの先輩たちは、シェアハウスをしたり、旅行やキャンプに行ったり、オカルト秘境探検部の名に恥じない活動をしたり、様々だったようだ。

彼らの活動は一応記録として残っており、本棚には大学の参考書の他に色あせたアルバム

も見受けられた。


「キャァァアーーーーー!!!」

女性の叫び声で俺は目覚めた。

覚醒してから、自分がどこにいるのかすぐには思い出せなかった。

どうやら、ソファーでうとうとしているうちに寝てしまっていたようだ。

叫び声の主はもちろん夢子だ。

俺は急いで夢子のいる座敷へ向かった。


座敷へ向かう途中、窓を見たところ、外はすっかり暗くなっていた。

座敷の襖を開けると、そこには布団の上に小さくなって座る夢子がいた。

乱暴に襖を開けてしまったので、彼女は布団に隠れようとしていた。

「俺だよ。狛田寅市」

そう声をかけると、彼女は覆いかぶった布団から顔だけをのぞかせた。

「トラちゃんか・・・ここは、どこなの?」


俺は夢子が寝ている間にあったことを彼女にすべて話した。

彼女は黙って聞いていた。

けれど彼女の意識はどこか遠くにあるといった感じだった。

「そうなんだ。賢ちゃんもサークルに入ってくれるんだね」

「まぁな」と俺は少し照れくさくなって顔を背けた。

「ありがとう。・・・わたし、今ちょっと後悔してる。『儀式』をしたこと」

「いつもそうだよね。やってからする後悔ばっかり・・・これから賢ちゃんにも、また迷惑をかけてしまうかも」

「怖い夢を見たんだ。上手く言えないんだけど、ずっと水の中にいて溺れるような感覚が続いて。呼吸が上手くできないの」

「ようやく光が見えた、息ができるって思ったら、何か藻のようなクラゲのようなものが足をつかんできて上にあがれないの」

「振りほどかなくちゃと思って、足をつかむものの正体を見たんだけど・・・」

彼女の声が段々と震えてきた。

「下を見ると・・・黒い髪の女の人がいたのっ」

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