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フドウ池

登場人物①


狛田こまだ 寅市とらいち


語り手。H大学経済学部1年生。九州の片田舎出身。

大学入学当初から3つのバイト(塾講、バー、図書館)を掛け持ちしている。

犬を含めた獣、動物に嫌われる体質。



猿渡さるわたり 夢子ゆめこ


文学部1年生。一浪で狛田賢の同郷の先輩。

人の影響を受けやすい体質。


夢子と再会して数日後、愛美さんから妹を交えて4人で会わないかと連絡が来た。

場所は大学の中央に位置するフドウ池で、とのことだ。

俺達がいるH大学は、無駄に広大で起伏が激しい。

確か日本の大学の中で3番目ぐらいに大きいんじゃなかったっけ。

起伏が激しいのはそもそもH大のあるS町が盆地で、東に水鏡山みかがみやま、西に双神山ふたがみやまがあり、双方の山に大学が囲まれる形となっているからだ。


「狛田君、何でL○NEやってないの~?」

連絡とるの大変だったじゃない、と愛美さんは開口一番不満をもらした。

「そもそも今時、ガラケーなんて珍しいよね」

「いや、金がないんで。スマホに変えらんないんですよ」

「高校のときから同じケータイ使ってるんだよね」

夢子とはあの日以来、同じ教養の授業をとっていたこともあり、頻繁に会うようになっていた。


「ごめんね~。妹、もうすぐ来るって。妹が来たら本題に入るから」

池のほとりのベンチに3人で座り、妹さんの到着を待った。

時刻はちょうど大学の昼休憩に入ったころで、講義室からぞろぞろと学生が出てきていた。

それにしても、今日の夢子はいつにも増してワクワク顔だ。

何かいいことがあったのだろうか。それともこれからあるのか?

どうやら俺の知らないところで夢子と愛美さんの二人は密に連絡を取り合っていたみたいだ。

俺を置いてきぼりにして、会話が弾んでいる。


「ごめんなさい。お待たせしました」

愛美さんの妹は、小走りにこちらへやって来た。

「お疲れ~。授業長引いちゃったんだ」

「えぇ、姉さん。それでこの人たちが次の生贄なの?」

生贄?この人はいきなり何を言っているんだ。

「そんな物騒な言い方したらダメでしょ。まずは自己紹介から、ね」

「…理学部数学科3年生の種田美波たねだみなみです。よろしく」

夢子、俺の順番で自己紹介をした。

美波さんは、俺のときに何故かにらんできた。…何か悪いことでもしましたか?


「じゃあ、ようやく本題に入るけど。二人にはワタシたちのサークルに入ってもらいたくて今日呼んだんだ」

ワタシたちと言っても、ホントに2人しかいないんだけど、と愛美さんは続けた。

「そしてちょっと変なサークルで、大学に認めてもらってないんだけど……でも宗教とかそんなんじゃないから」

「『オカルト秘境探検部』、ですよね。もう20年近く続いているんでしょう?すごいじゃないですか!」

夢子は興味深々のようだ。

にしても変な名前だ。現実世界でこんな名前のサークルがあってたまるか。

「うん、胡散臭い名前だよね。活動内容は別にあってないようなものだし、名前もその時々にとって変わって来てるから、サークル活動自体に意味はないんだよ」


「ここからちょっとサークルの成り立ちを説明するね。このサークルは20数年前に、ある女子学生が作ったとされていて、彼女はここフドウ池で自殺をしたと言われているんだ。彼女はある教授に恋をしていたんだけど、学生と教授という立場上、またその教授が妻子持ちであったことからも、その恋は成就することはなく、悲嘆に暮れた彼女は自ら命を絶ったらしんだ」

そして、これはサークルの本当の存在理由にも関係あるのだけど、と愛美さんは言葉を切った。

「彼女の死を悲しんだ教授は、彼女が立ち上げたサークルを存続させようと努力したんだって。そして、彼女が満足に大学生活を送れなかったことを残念がり、彼女によく似た女子学生に『頼み事』をしたらしいんだ。その頼みごとは今も引き継がれ、20年近く続いている。ワタシも初めてサークルに入ったときにやったことなんだよ」

とても簡単なことですぐに終わることだから、そう気負う必要はないよ、と愛美さんは真剣に話を聞く夢子に言い聞かせるように、なだめるように言った。

俺は話半分に聞いていたが、学生が面白半分で作った怪談にしか思えなかった。

「それで、その『頼み事』とは何なんですか?」

俺も面白半分に話の続きを聞きたくなっていた。


「それは今からやっちゃおうかなって思っているけど…」

「えぇ!やっちゃいましょう!」

夢子、どうしてお前はそんなにやる気なんだ。

「美波ちゃん、『アレ』の用意は出来てるかな?」

美波さんは返事するよりも先に動き出していた。

彼女は池の水に少し浸かっていたペットボトルを引き上げた。

「昔はちゃんと池の水を飲んでいたらしいけど、どう考えても衛生的に汚いからやめた方がいいよね」

美波さんからペットボトルを受けとった愛美さんは苦笑いして、ボトルに張り付いた藻を取っていった。

フドウ池の水は明らかに濁っており、飲めるようなシロモノではなかった。「じゃ、言っておいたように私が水を口に含んで夢子ちゃんに口移しするね」

夢子と愛美さんの身長はそう変わらない。

愛美さんが夢子の前に立った。夢子は緊張しているようだ。

ペットボトルに口をつけた愛美さんがリードするように夢子に唇を差し出した。

愛美さんが髪をかき上げ夢子を待った。

覚悟を決めたように夢子は目をつぶった。。。


俺は茫然と美少女大学生2人のキスを見ていた。

ふと美波さんが目に入った。

美波さんは羨望の眼差しを向けていた。

彼女の瞳には嫉妬の色が混じっているようだった。

美波さんはこちらに気付くと、慌ててそれまでの色を隠した。

彼女は俺の方を見て、侮蔑を込めてにらみつけた。


「んくっ」と夢子が水を飲み干す音が聞こえた。

俺と美波さんがお互いに気を取られているうちに、接触は終了したようだ。

「は、はは・・・恥ずかしいですね、コレ」

夢子は耳まで真っ赤だった。

「夢子ちゃん、大丈夫?」

愛美さんは余裕そうだ。

「へ、へいき・・・です・・・ア、アレ?・・・お、おかしいな?」

夢子は話しずらそうだ。

ほどなくして、彼女は息を切らしその場にへたり込んだ。


「狛田君、夢子ちゃんに肩かしてあげて」

夢子は意識を失っていた。

「こ、こいつ、一体どうしたんですか?」

「まずは場所を変えようか。夢子ちゃんなら大丈夫だよ」

だらんと完全に気の抜けた夢子を背負った。

「2人のサークルへの加入も祝わなくちゃだし、歓迎会だよ」

「姉さんの車は北1駐車場でしたっけ。・・・そこまで夢子さんを運んで下さい」

俺は完全に置いてきぼりをくらっていた。

種田姉妹の言うことを聞かざるをえなかった。

「安心して。このサークルに入って良かったって思えることもあると思うから」

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