試みたから
「ダメだ……ダメだもう……! 僕はダメ人間だ……! こんな、荷物一つ運べないだなんて……!」
「うるせえ! 黙って運べ!!」
「ヒイィ……!?」
土嚢を抱え、ふらふらと田んぼの縁を彷徨う時田に、俺は後ろから体当たりした。今日は先日の雨とは打って変わって、日差しが皮膚を突き刺してくるような、本格的な夏の暑さになった。
「ダメよ、悠希ちゃん。言葉遣い」
遠くの方で姉さんが、鍬を振りかぶりながら俺を窘めた。霊感のない時田が地べたに跪き、何が何だか分からない、といった表情で目を回していた。
□□□
俺は、時田を姉さんの田舎に連れて行くことに決めた。
あーだこーだ言っても切りがないし、とにかく太陽の光を浴びせ続け、手っ取り早く姉さんに根性を叩き直してもらうのが一番だと思ったのだ。ショック療法だ。
あの晩、田舎に電話をかけ彼を連れてきてもいいかどうか確認したところ、姉さんは新しい労働力が手に入ると大喜びだった。俺は早速ナースさんに頼んで高速道路をかっ飛ばし、ばあちゃん家まで半分気絶していた時田を運んでもらった。彼の上司の上条さんや時田家の家族には、俺からお願いした。問題があるとすれば、本人の了承を取っていないことくらいだ。目が覚めると、見知らぬ田舎町の、全然知らない人の家にいたのだから、彼自身は神隠しにでも遭ったと思っているのかもしれない。
「さあ! 四時までに作業全部終わらせるわよ!」
「一体何なんだ……!? ここはどこなんだよ……!? 道のど真ん中で、ラジオ流してるし! おかしいよ! 上条さんも、何も言わないし! どうして僕はここに……!?」
「オラ、ブツブツ言ってないでやるぞ!!」
「ヒィイ……!?」
茹だるような暑さの中、麦わら帽子の梢枝姉さんが、汗を光らせながら白い歯を見せた。俺は丸まった時田の横に立ち、小さくため息をついた。まずは足腰から鍛えなければ。ものの数時間でへたり込む時田に、俺は一カ月前の自分の姿を重ねて見ていた。俺は轢かれたカエルみたいになった時田を写真に取り、インスタにアップした。こうやって彼の安否を、家族やナースさん、それから上条さんたちと共有していた。元気になったら、彼もまた元の職場に戻れる日も来るだろう。
あの日、時田は結局立ち上がりはしなかったが……立ち上がろうと試みはした。
だから俺も、手を差し伸べることにした。
「終わったら、スイカ食べましょう。ね?」
「スイカ……」
「スイカ!」
「ふふ。吉村さん家から、分けてもらったのよ」
姉さんが首に巻いた白いタオルで汗を拭いながら、向こうからやってきた。俺は良かったな、の意味で時田のケツを蹴り上げたが、逆効果だったかもしれない。彼は見えない”何か”に後ろから攻撃を受け、幽霊みたいに顔を青白くし震え出してしまった。青い空を背景に、ラジコンヘリが爆音を響かせながら俺たちのそばを通り過ぎて行った。
「さ。さっさと終わらせましょう。みんなでやれば、あっという間に終わるんだから」
「はァい」
「今日の晩御飯は何がいい? 悠希ちゃんは?」
「ハンバーグ!」
「はいはい。ハンバーグね」
「あの……」
「?」
俺と姉さんが振り向くと、ようやく起き上がった時田が、ポケットから取り出したスマホを握りしめ、おずおずと話しかけてきた。
「ここ……Wi-Fiはあるんですか?」
俺と姉さんは思わず顔を見合わせた。時田の、真剣そのものな困り顔を見て、俺たちはとうとう吹き出した。




