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「陛下、ユクト神官長と騎士団長が来られました」
呼ばれたユクトと騎士団長がアーサーの執務室に来た時、アルバートも多少は落ち着いたようでメアリに入れてもらった紅茶に口をつけていた。
「皆様おはようございます。このように朝早くからお呼びとは如何なさいましたか?」
おっとりとユクトが声をかけた。その後ろでは2メートルはあるがっしりとした体格の騎士団長ガイウス・マルベリーが立っていた。
「ああ、朝早くにすまないな、2人とも。とりあえず座ってくれ」
そう言われて2人はアルバートの向かいに座る。
「さて、ここに来てもらったのはユイのことだ。
ガイウスはユイとは会ったことはなかったな?」
「いえ、ユイ様とはこちらに来られて3日目?でしたか、騎士団の方でお会いしました」
「ん?会ったことがあるのか?」
「はい。城の案内を侍女殿にしてもらっている最中護衛をしているのがこの国の騎士だと聞いてわざわざ挨拶に来られました。訓練もあるのに自分に時間を割いてもらって申し訳ないと仰っておられました。
随分と幼い聖女殿だと思いましたが挨拶をしっかりされ感心しました」
ガイウスはユイにあった日のことを思い出しいつも冷たい印象を与える無表情を少し緩ませた。その表情を見た周りは軽く驚いたがガイウスがそれに気づくことはなかった。
「いや、ユイは幼くないぞ。あれでも一応16らしい」
アーサーが説明するとまたもや無表情を崩し驚いた顔を見せた。
「は?16、ですか?
異世界とこちらでは年齢の数え方が違うのですか?」
しっかりと溜めた後疑問を口にした。
「いやいや、一緒だからな。
あー、あれの外見はおそらくこれまでの生活での影響だとは思う。まぁその話はまた今度だ。
ここに来てもらったのはユイがいなくなったからだ」
それまでの雰囲気を変えて少し厳しい顔をしてアーサーは言った。
その言葉に当然後から来た2人は驚いた。
「お待ちください陛下。いなくなったとはどういうことですかな?」
そしてユイの部屋にあった手紙を渡した。
手紙を読んだ2人は驚きすぐに何故自分が呼ばれたか察した。
「陛下、では我らは王都とその周辺の探索に参りましょう」
ガイウスはすでに頭の中で誰を探索に回すかどこを探すか考え始めていた。そこに
「陛下、ユイ殿は魔法を使っていなくなったのではないですかな?」
ユクトもユイがどうやって城からいなくなったか考え始めていた。そして魔法を使ったなら騎士団では見つけるのが困難だと、いや、誰が探しても難しいということがわかった。そのためユクトの顔は普段の穏やかな表情とは違い苦虫を噛んだような表情をしていたのだ。
「ユクト?」
「…陛下、おそらくユイ殿を見つけるのは難しいかと」
「ユイの指導はお主がしていたな。ユイの魔法の才はいかほどか?」
そう聞かれたユクトは軽く目を瞑り深く息を吐いた。
「ユイ殿は初めの方こそ戸惑っておいででしたがコツを掴むとそれはもう恐ろしい速さで習得していかれました。正直中位魔法を使えれば良い方だと思っておりましたが難なく使われていましたな。恐らくこのまま訓練を積めば上位は勿論最上位も使えたかもしれませんな。
………そして魔法の才は勿論、聖魔法においては歴代の聖女殿を上回るほどかと」
そこまで聞いて周囲は驚きに息を詰めた。まだ適性を見る程度と魔法について学んでいる段階で訓練まではしていないと思っていたからだ。
そこでカルロスが口を挟んだ。
「ユーカ殿は現在どの程度進んでいるのですか?」
それは皆んなが気になっていたこと。2人ともが聖女なら同じように扱えるはず、と声をかけたのだが
「ユーカ殿についてはバーニスが指導にあたっているので様子を見に行った時のことと聞いた話ではあるのですが、実はあまり芳しくないようなのですじゃ。
というのもどうもあまり勉学は好きではないようで疲れた、飽きた、と言っては中断するらしく。
殆ど進んでおりませんな。基礎を学んでいないのに実技に入るわけにもいかず。
本人は早く魔法を使いたい、自分は聖女だから一々勉強しなくても使えればいいじゃないかと文句を言っているようですがな。
それと聖魔法については確かに適性はあるようなのですが、正直聖女か、と言われると疑問になる程度で。
勿論今後の訓練で伸びる可能性はあります。
ですがどの程度訓練をする気になってくださるか」
そして更に
「それと先程ユイ殿の手紙を読ませて頂きましたがしっかりとこちらの言葉で書き綴っておられましたな。しかしユーカ殿は言葉こそ問題はないですがどうも字はかけないようでな。指導陣はどうにかならないかと言ってくるし、タイラー殿下は喋れるのだから無理にしなくてもいいんじゃないかと言ってくるしで、現在は殆ど学習はしておらんようですな」
これには周囲も絶句である。
ユイの手紙を見てなんとも思わずに読んでいたがユーカは字が書けず、それにつけて学習も止まっているとは報告が来ていないので誰も知らなかったのである。
いや報告はタイラーから来ている。頑張っている、進んでいると。どうやら報告もまともにできないとは。
この学習の中にはこの国の歴史、地理、瘴気や魔物、聖女についてなど必要なことが盛りだくさんなのである。これを学び、聖魔法を習得してやっと浄化の旅に出れるというのに、それをしないとはどういうことなのか。確か早く旅に出たいとか心配だとか言っていなかったか?と呆れてしまった。
「これはもうユイが聖女で間違いないのではないか?」
アーサーが皆んなの心の中を代弁した。
「そうですな。
はっきり言って間違いないとは思います。無論ユーカ殿が真面目に訓練を受けて開花する可能性もないわけではないのですが…。
ただユーカ殿とタイラー殿下はおいといて、ユイ殿をどうするか、と言うことですな」
そうなのである。ユイがほぼほぼ間違いなく聖女だとは思っても当の本人が既にこの城にいないのである。探すのも無理となると…
そこに何かを考えていたアルバートが顔を上げて言葉を発した。
それには周囲も驚いたがこれまでのアルバートの態度を考えれば納得はする。
こうして上層部の今後の方針が決定したのだ。