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なんだか優香の悪女っぷりが。
こんなにあからさまに意地悪してもいいのか?とも思ったのですが彼女は結依に対して苛立ちすぎてすっかり周りが目に入らなくなっているのです。
わかりやすすぎて実はそこまで嫌なやつではないのか?と思ったり思わなかったり。
翌朝、朝食を摂るため支度をしていたアルバートの元にバタバタと足音が聞こえてきた。
(ん?誰だ、廊下を騒がしく走るだなどと。女官長に言ってもう一度指導してもらうべきか?)
そんなことを考えていると激しく扉が叩かれた。何事かと入るよう声をかけると焦ったように飛び込んだのはメアリだった。
「朝早くお騒がせして大変申し訳ありません」
それでも一応の謝罪を述べるとアルバートの返事もそこそこに
「あの、ユイ様をご存知ありませんか?お部屋に起こしに入ったのですがいらっしゃらなくて!それどころかベットも整っていて横になられたご様子がないのでございます」
その言葉を最後まで聞く間も無くアルバートは部屋を飛び出した。勿論メアリもその後に続く。
そして開け放たれたユイの部屋に飛び込み奥のベットルームまで向かうもそこはメアリの言うように整えられた使われた形跡のないベットのみ。ざっと部屋の中を見渡し微かな違和感を感じる。
(なんだ?何かが足りない?)
暫く眺めてハッとした。
「…ユイのカバンがない」
ポツリの漏らされた言葉にハッとなったメアリはいつもユイが荷物を置いているベット近くの椅子を見る。
ユイがこの世界に来た時背中におぶっていたナップサックのようなカバン。ユイはそれをリュックと言っていた。
それをいつもベット横の椅子に置いていた。自分がこの世界に来た時に持っていた唯一自分の持ち物だからと大事にしていたそのカバンがないのだ。
そこでなぜ寝室に置いてあるカバンのことをアルバートが知っているのか、というところをメアリも気にするべきなのだが今はそこまで気が回らずスルーしてしまったのだ。
実は夜ユイがしっかり眠れているのか、泣いてなどいないのかと仕事の後コッソリ様子を見に来ていたのだ。
そんなことがメアリにバレたら期間前の淑女の部屋に!と怒られるのはいうまでもない。
一方のメアリは椅子を見て見て慌ててワードローブを開け足元を見るとそこにしまってあったはずのユイの靴もなく、そこにはこの世界に来てから履いていたメアリの用意したかかとの低く履きやすい柔らかそうな靴が揃えて置いてあった。
「そんなっ…一体どこへ」
蒼白になって靴を見るメアリを置いて部屋を出ると扉の前に立っていた護衛を呼ぶ。
「お前たちは昨夜からこの部屋の前にいたな?」
「はい!侍女殿がが退室してから今までずっとここにいました。勿論どこにも行っていません」
そう。扉の前にはユイの護衛として騎士が2名立っていた。いつもアルバートがユイと食事をしている時間帯に交替となるので夜番である彼らはまだ交替していなかったのだ。
そして彼らは今朝までどこにも行っていない。その間部屋から出て来た者はメアリ以外おらず今朝の騒ぎにも戸惑っていた。
ふと話を聞いていたアルバートが部屋の中に視線をやるといつも朝食を食べていたテーブルに何かが乗っていた。
側に行き手に取るとそれはこの国の文字で書かれた手紙だった。
ーアルバート様
突然いなくなることをお許しください。
これまでなんの役にも立たず、ましてやこの世界を救うとも言えない私のことを気にかけてくださってありがとうございました。
突然この世界に来て初めは怖くて不安で仕方ありませんでした。
でもこの世界に来て、アルバート様やメアリ、それに護衛の騎士様に優しくして頂き、とても嬉しかったです。元の世界の私はいつも淋しく孤独でした。
ここにこれて、皆さんに会えてたった7日という短い間でしたがこれまで生きてきた時間でも味わうことのないほどとても幸せでした。
見知らぬ私に親切に、そして優しくしてくださった皆さんに少しでも何かできればと思います。今はまだ何も思い浮かびませんがこの世界を見て回りながら何かできないか考えて行きたいと思います。
これまで本当にありがとうございました。
ユイーーー
「なんてことだ………
父上と宰相殿を執務室に呼んでくれ。
メアリ、君も来てくれれ」
そう言って足早にユイの部屋を去ったのだった。勿論その手の中には大切そうにユイの手紙が握り締められていた。
「何事だ、まだ朝食の途中だったんだが」
若干不機嫌そうに執務机に腰掛けアーサーが尋ねた。
「これをお読みください」
そうして渡したのはユイの手紙。
それを黙って呼んだ後手紙を宰相であるカルロスに手渡し頭を抱えた。
「………なぜだ。なぜユイは出て行ったのだ」
「恐れながら陛下、それについてはわたくしから」
それまで黙って壁際に控えていたメアリが一歩前に出て声を上げた。
「ん?
ああ、メアリ。何か気になることか原因に心当たりがあるのか?」
アーサーの声には何か知っているのかとの期待が込められていた。
「はい。
昨日図書館に行く途中ユーカ様と廊下で出会った時、随分と酷い事を仰っておられました」
「ああ、そのことはメアリ、君からも騎士からも報告を受けている。確か出て行けとも言っていたのだったな?だがそれだけでこんなにあっさり出て行くものか?」
「それはわたくしにもわかりません。ですが去り際にユイ様の耳元で何かを囁かれました。その後真っ青になってガタガタと震え始めてしまわれたのです。
その時なんと言われたのか教えてはくださいませんでしたが、もしかしたらそれが原因ではないかと」
暫く皆んな黙って考え込んでいた。
すぐにでも追いかけたいがあの部屋の状態から何かしらの魔法を使って去ったのではと考えられた。そうなると追いかけたところで簡単に捕まえることができるだろうか?
「ふむ。
確かユイの指導にユクト神官長がついておられたな?彼にユイの力がどの程度か、どこまでできるのか確認しよう。それから騎士団長に連絡してこちらに来るよう伝えてくれ」
焦るアルバートとは対照的にアーサーは既に落ち着いていた。さすが国1つ治めるだけあって冷静に判断していた。
アーサーは時々ユクトからユイとユーカの訓練の進行状況を聞いていた。と言ってもユーカについてはバーニスが指導していたのでそちらからも聞いていたのだが。
そしてユイがいつも熱心に指導を受け、かなりの魔法を使える事を知っていた。それならばなんらかの魔法を使って部屋から誰にも知られず出て行くことができたのではと考えたのだ。
勿論、騎士団に捜索の依頼をするため騎士団長にも話を通さなくてはならない。
そう考えユクトと騎士団長を呼び出すよう伝えたのだ。