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聖女召喚の儀が行われて1週間がたった。
この1週間は少女たちがこの世界に慣れる為それぞれこの世界について学習したり空いた時間はのんびりと過ごしたりと割と自由に過ごしていた。
それぞれ、というのは初日の2人の様子から一緒に過ごさない方が良いだろうと判断したからだ。その為部屋自体もかなり離れた場所をあてがっていた。
この世界での瘴気、魔物の被害はこのアニエス国の王都周辺ではまだ出ていないが人里離れた山奥や他国では少しずつ出ていた。その為聖女召喚の儀を希望する声は日に日に高まっている。
本来なら聖女が既に来ていることを伝えるべきであるし、これ以上の被害が出る前に浄化の旅に出るべきではある。
しかし、それはこの世界の人間の都合である。
無理矢理、それも要は誘拐同然にこの世界に連れてこられ、この世界についても、瘴気や魔物についても何も知らない少女たちを送り出すのは流石にするべきではないとこの国の上層部では考えたのだ。
その為少女たちの様子を見ながら無理のない範囲で進めているところである。
そうして1週間がたったのだがここでそろそろどちらが聖女なのか、という問題が再浮上した。というのもこの聖女召喚の儀を行なったタイラーが不満を言い出したからだ。
「父上、そろそろ浄化の旅に向けての訓練や準備を進めるべきではないでしょうか?今はまだ被害は小さいですがいつ大きくなるともわからないではないですか!他国から召喚の儀を行うようせっつかれてもいますよね。そろそろ聖女召喚が成功したことを公表するべきではないですか!?
それにユーカは瘴気や魔物の被害について学んでとてもこの国、この世界を心配し、少しでも早く役目を果たすべきではないかと自分から言ってくれたのです。
それと父上、私も聖女ユーカと一緒に是非旅に出たいと思います。許可を頂けますか?」
アーサーやアルバート、カルロスを前に唾を飛ばす勢いで熱弁したのだ。
それに3人は揃ってため息を漏らした。
勿論そんな3人の姿にムッとしたのはタイラーだ。
「何ですか?私の言ったことの何か間違っていますか?」
「あのなぁ、そもそも召喚の儀は成功していないだろう」
「なっ!
兄上、自分ではなく私が成功させたからといって難癖をつけるのはやめて下さい。どこが失敗したというのですか?聖女であるユーカはきちんと現れ、そのユーカは聖女の役割を果たすと言っているのですよ?」
「はぁ。
タイラー、儂があの日話したことをお前はきちんと理解していないではないか。
召喚の儀が成功しておればそもそも2人も現れることはなかったわ。その時点で失敗だと言えよう。
それについてはあの日きちんと説明してお前も納得しておったではないか。
それにユーカが、と言っておるがユーカが聖女と決まったわけではあるまい。何を根拠に聖女だと言っているんだ?」
そうなのである。召喚の儀では2人の少女が現れ、どちらが聖女かまだ誰にもわからない。にも関わらずタイラーはユイもこの世界に来たことを忘れているのかあえて記憶から消し去ったのかわからないがユーカのことしか言わない。そして聖女はユーカだと根拠もなく言い張っている。
「何をおっしゃっているのですか?あの日ユーカは頑張ると引き受けてくれたじゃないですか。あの心の優しさ、清らかさこそまさに聖女ではないですか。
それに比べもう片方は引き受けもせずベソベソと兄上にすがっていただけでしたよね?そんな者が聖女であるわけがない。そんなこと誰が見ても明らかでしょう」
誰が見ても、とは誰がだ?と思いはしたもののここでそれを言ったところで納得しないだろう、逆にユイに更に辛く当たるのではと考え誰もが無言を貫いたことでタイラーは自分の意見が正しかったと勘違いし、更に
「そもそも聖女でもない者を世話する意味がわかりません。無駄飯食らいではないですか。あのような者とっとと追い出すべきですよ。
まぁ召喚の儀に巻き込まれたのは多少気の毒だとは思うのでなんなら下働きの仕事を世話するくらいしても良いですけどね。
ああ、そう言えば元の世界でもユーカの家で手伝いをしていたようなので、ユーカの侍女見習い、くらいならしてやっても良いかもしれませんね」
これには流石にアルバートも腹を立てた。
「お前は自分が何を言っているのかわかっているのか?
そもそもお前が勝手に召喚の儀を行なった為に2人も少女がこの世界に来ることになったのだろう!しかもどちらが聖女なのか証拠もないのに断言し、あまつさえユイをユーカの侍女見習い?城の下働き?
どれだけユイを馬鹿にすれば気がすむのだ!!」
「は?
兄上こそ何をおっしゃっているのですか?
ああ、兄上はあの者に泣きつかれて同情しているのですね。兄上は騙されているのですよ。ユーカも言っていましたよ。アレはそういう態度でよく男を騙していたと」
「お前はっ…!」
「2人とも、落ち着いてください。
タイラー様、まずはユイ様のことですがこの世界に勝手に連れてきて下働きや侍女見習い?ですか、そのようなことをさせるわけにいきません。召喚の儀でこられた方です。どちらかを優遇することは得策ではありません。仮に他国にこのことがわかった時に何を言われるか。そのような愚行を犯すわけにはいかないのです。ですので、これからも2人には同じ対応を取らせていただきます。
それから聖女についてですが、今の段階でどちらが聖女か調べる手段はないのです。これは訓練が始まって実際に力を使って判断するしかありません。ですのでこちらも同じ対応を取らせていただきます。
そして浄化の旅についてですがユーカ様のご心配はとてもありがたいものです。ですがきちんとした対策を取らずに焦って出かけた挙句何かあってからでは遅いのです。ですので被害が出ているところには申し訳ないのですが今暫く学習をしていただき、その後訓練をしっかりつんでからでないと出るわけにはいきません。
そしてタイラー様の旅の同行ですが、タイラー様の剣の腕前はかなりのものですので、王族という立場で聖女の護衛として旅に同行するというのは他国に対しても良い印象を与えることは間違いありません」
と、そこまで喋ってカルロスは言葉を切る。そしてタイラーは前半部分に関してはきちんと聞いていたのかいなかったのか完全にスルーし、最後の言葉に食いつく。
「では私が同行する事に異論はないのだな!」
「はい。異論はございません。
ただし、旅の同行者として決定した場合、聖女殿がどちらでも異論は認めませんよ」
「………………………は?」
「当たり前ではないですか。同行者は当然公表いたします。そこまできて聖女殿が思っていた方とは違うから私はやめる、なんて通用するとお思いですか?」
「ふ、ふん。勿論だ。どんなことがあっても撤回することはないからな」
そこまで言われやっと理解したもののタイラーの中ではユーカが聖女ではない、などと考えられない事なので特に問題ないだろうとあっさり了解したのだ。
ユイの事を馬鹿にされたと憤っていたアルバートもタイラーのあまりの言い草に呆れて冷静さを取り戻し、アーサーやカルロスと呆れた眼差しを交わしたのだった。
どのセリフを誰が言ったか分かりづらいですかね?言葉遣いなどを変えて違いを出したつもりですが。
また感想、意見をお聞かせください。