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翌朝早く目が覚めた結依は自分がどこにいるのかわからず慌てた。

しかし、すぐにアニエスという世界に来たことを思い出すと同時にアルバート様のことも浮かんでなんとなくホッとした。


(やっぱり夢じゃなかったんだ)


昨晩は部屋に案内してもらい、軽くシャワーを浴びて(蛇口ではなかったものの魔法石?が埋め込まれた割と近代的なシャワールームだった)ベットに入った。寝れないだろうと思っていたが、自分で思った以上に精神的に疲れていたのか意外とすぐに寝てしまったようだ。


暫くベットに座ってボーッとしていたが小鳥の鳴き声に自然と窓辺に足が向かった。

カーテンを開くとそこには眩い朝日が降り注ぎ、緑豊かな綺麗な景色が広がっていた。


どうやら自分がいるのは割と高い場所のようで眼下には緑の森が広がりその先に、日本の景色ではない白い壁に赤色、というよりは少し濃いエンジ色の屋根が連なっていた。



「うわぁ、凄い。外国に来たみたい」


結依は都内に住んでいたが元々は緑溢れる田舎に住んでいた。本人も都会のごちゃごちゃとした街並みより土の道だったりちょっとした森のある場所が好きだった。



そうして夢中で外を眺めていると小さなノックの音の後静かに1人の女性が入ってきた。

ふと顔を上げて結依が既に起き、窓のそばに立っているのを見て軽く驚いた表情をした後お辞儀をした。



「おはようございます。


まだお休みかと思い勝手に入らせていただきました。昨夜はよくお休みにやられましたか?」


昨夜シャワーの使い方を教え、ナイトウェアの準備などをしてくれた金色の髪を後ろでまとめた薄水色の目の美人さん。確か名前はメアリさん、だったかな?


「あ、おはようございます。

えっと、はい。思ったよりグッスリ眠れたようで早くに目が覚めたので少し外を見ていました」


服も着替えず裸足のまま夢中で外を見ていたのが少し気恥ずかしく、目元を薄っすらとピンクに染めて答える結依の姿に


(か、か、可愛い〜〜〜〜)


と身悶えしているのを全く感じさせず着替えの準備をする姿はまさに完璧な侍女?と言えるだろう。多分。



「アルバート殿下が、もし体調が良ければ朝食を一緒に、と仰っておられますがいがなさいますか?」


「あ、えっと、私なんかが一緒でもいいのでしょうか?」


「勿論でございますよ。返って大喜びされると思うのですけどね」



「え?」


なぜか後半部分は聞こえなかったけど何も問題なかったようでテキパキと服を選んでいる。

服、というよりドレスだろうか。


「いえ、何でもございません。それではこちらのご衣装などいかがでしょうか?」


「あ、メアリさんありがとうございます」


準備してもらっていたことに気付いて慌ててお礼を言う結依。


「ユイ様、わたくしのことはメアリ、と呼び捨てでお呼びください。それに丁寧な言葉を使わずに普通に喋って頂いて構わないのですよ」


「でも、私より年上、ですよね?それなのに…」


「わたくしはユイ様の侍女としてここにおります。年上とか気になさらないでください。それより普通に喋って頂いた方が嬉しいですから」


そう言ってさりげなく着替えを促す。



メアリが勧めてくれたのは薄紫色の、胸元で切り返しのある軽い素材を重ねて作ったとても可愛らしいドレスだった。丈は長く踵のある靴を履いても足元が隠れるほどだ。

どうやらこの世界、これが標準仕様のようで、侍女のメアリでさえ床まであるドレスを着ている。ただし色は紺色で、白いエプロンをつけた所謂メイド服というものだろう。


(気を付けないと踏んで転んじゃいそう)


ちょっとドキドキの結依だった。






着替えを終えた頃、ノックがありメアリが対応した後アルバートを部屋に通した。


「ユイ、おはよう。昨日はちゃんと眠れたかい?」



あっという間に長い足で結依の目の前まで来たアルバートは腰を屈めて結依の顔を心配そうに覗き込んだ。



(うわーうわーっ、近い近いっ!)


あまりの近さに照れて真っ赤になる結依。しかしアルバートはそんなことにも気付かず


「ん?真っ赤じゃないか。もしかして熱が出たんじゃないのか?寝てなくて大丈夫かい?」


ますます顔を寄せてくるので、結依は更に真っ赤になった。



するとアルバートの後ろからクスクスと笑い声が聞こえ


「アルバート殿下、女性にそのように顔を近づけたら誰でも真っ赤になりますわ。


ユイ様でしたら今朝は顔色も良く、朝食もご一緒できるそうなのであちらの席にユイ様をご案内くださいませ」


メアリにそう言われ、やっと顔の近さに気付いたアルバートは慌てて顔を引き、平静を装ったものの密かに耳が赤くなっていたことには結依は気が付かなかった。


勿論、メアリは気が付いたがそこは黙って見守るのが優秀な侍女なのである。




2人揃って若干照れながらも、窓辺にあるテーブルにつき朝食の準備が整うのを待っていた。

しかし誰かに給仕をしてもらうことに慣れない結依は座っていてもソワソワと落ち着かない。更に言うなら次から次へとテーブルに並べられる食事に今度は全部食べられるかとヒヤヒヤし始めた。


そんな様子を向かいから黙って見ていたアルバートはクスッと気付かれないよう笑いをもらす。



「ユイ、テーブルに載っているものを無理して全部食べなくても大丈夫だ。食べれるだけ食べなさい」


「えっ!?


でも折角用意していただいたのに…」


どう見ても小柄な結依がたくさん食べられるわけがないとアルバートもメアリも気付いている。ただ、昨日抱えた時の結依の軽さが、そして年齢の割に明らかに小柄なその身体が気にかかりついついアレもコレも用意するよう言ってしまったのだ。


昨日出会った2人の聖女候補。どうやら顔見知りらしいこの2人は思い返すと家名も同じだった。姉妹か親戚か。しかも年齢も同じ、だと言うのにもう片方の聖女候補のユイに対する態度は随分と冷たいものだった。しかも2人の体系にこれだけ違いがあるのには何らかの理由があるのだろうと、あの場にいたタイラー以外の誰もが気が付いていた。


そして用意してくれた人に悪いとしょんぼりするその姿に結依の料理人に対する思いやりに自然と顔がほころぶ。



「ユイ、私はかなりの大食漢なんだよ。だからユイが食べれなくても私が食べるから何の問題もない。

それよりユイは無理せず少しでもたくさん食べるようにしなさい。風が吹いたら飛んでいきそうで心配だよ。これからできるだけ一緒に食事して私がユイを太らすぞ」


最後はおどけたように笑うアルバートに自然と結依も笑顔になった。


「えっと、メアリ?準備してもらってありがとう。

いただきます」


そう言ってメアリの見守る中2人で楽しく食事をしたのだった。









一方、部屋で一人食事をしているのは優香。


(なんで異世界に来た次の日の朝なのに一人ぼっちで朝ごはん食べないといけないのよ!

普通異世界トリップしてきた聖女様は優しい王子や、凛々しい騎士、ストイックな神官なんかが一緒に過ごしてくれるもんでしょ!折角一度は体験してみたい異世界トリップ、しかも聖女になれたのに!!)


よく読んでいた異世界トリップ物の話に自分を重ねダラダラと心の中で文句を言いながらも出されたものをつついていた。ただし、嫌いな野菜は端によけて、好きなものばかり選んで食べていた。


勿論、日本にいた頃も全部結依にやらせていたので給仕をされることも、ドレスの準備をしてもらうことも当たり前のように受けていた優香。

紅茶を口につけたところで、



「ねえ、この紅茶冷めてるんだけど。入れ直してちょうだい」


当たり前だ。準備をしてからとにかくダラダラと突き回してなかなか食べなかったのは優香だ。紅茶も冷めるというものだ。

それに優香についているこの侍女。昨晩も部屋に入ってから名前を告げあれこれ世話を焼いているのだがこれまで一度も名前を呼ぶことなく、ねえ、ちょっと、と呼ばれるのだ。

しかも文句も注文も多い。


お城の侍女として働いていると傲慢な令嬢や我儘な令嬢、馬鹿にしてくる令嬢など様々だ。なのでこれしきのことで苛立ちを顔にも態度にも出すことなくきっちりと対応できる。できるが、腹が立たないわけはない。



この侍女、名をメリザと言い結依に付いているメアリの双子の妹だ。昨晩勤務の後に2人で話をしたがどうやらもう一人の聖女候補は大人しく優しい印象を受けたのにこっちの候補はこれまでの令嬢方以上に手がかかる。

しかもそうして話をしている間も、枕の高さが合わなくて眠れない、外の音が気になって眠れない、喉が渇いた、と兎に角呼びつけるのだ。結局、優香が眠るまで何度も呼び出しを受けるので、夜番のための控え室で朝まで過ごすことになったのだ。


そして朝になって起こしたところ、まだ眠い、ドレスが気に入らない、メイク道具ももっとマシなのはないのかと今日も絶好調である。ちなみにメイク道具はこの世界でも最高品質の物を用意してあるし、ドレスも同様だ。

ただし、昨晩こちらの世界に来られたので用意してある数が少ないのは仕方ないだろう。何せ予定されてなかった上に急だったのだから。とりあえずは既成のものをサイズを整えておくくらいしかできなかったのだが、それでも衣装部のメンバーが必死で準備したのだ。


聖女とはこんなに我が儘なものなのか?とは思ったものの、この世界を救ってくださる方だから我慢するしかないのである。



そして食事が終わると殿下方はどこにいる、何できてくれないのかとまたもや文句ばかり。


アルバート殿下がユイ様と食事をしているのはとりあえず黙っておいた。

そしてタイラー殿下は………



まだ寝ている。

あの方は朝は遅くに起き、のんびりと食事を摂った後騎士団の訓練に参加する。

ただ、陛下より聖女候補の世話をするように命じられているようなのでひょっとしたら朝食の後はこちらに来られるかもしれないが、もし来られなければ何を言われるかわからないので、とりあえず黙っておく。








こうしてそれぞれの少女の異世界生活初日がスタートしたのだった。



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