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その夜ユイが寝静まった頃そっと近寄る影があった。ソレはゆっくりゆっくり近寄ったかと思うと



ガツッ


ゆいのバリアみたいなの、と言って張った結界魔法に激突した。そして見事に気を失ってしまったのだ。翌朝目が覚めたユイがウロから出てきてソレを見て叫んだのは当然のことだ。







キャーーーッ!?


「な、な、な…」


朝起きて結界を消した後外に出たユイは目の前に転がるソレを見て悲鳴を上げた。ただし………



「何これ何これ何これ!」


ソレの目の前にしゃがみ込んで悶絶するユイ。

ソレとは、真っ白な毛玉。大きさは直径10センチくらいだろうか?

比喩でも何でもなく本当にまん丸の毛の玉なのだ。

がしかし、いくらユイでも何かわからないものをいきなり触るような間抜けは



「ふお〜〜〜っ、ふわっふわだ〜」


していた。



初めこそツンツンと指先で突いたのだがあまりのふわふわ具合に思わず持ち上げてしまったのだ。そしたら想像以上のふわふわ具合に大興奮。


いやいや、少しは警戒しよう。ここは異世界。元の世界とは常識も生物も異なる場所。それなのに目の前に落ちていたからと触るのはダメだろう。と、ここにアルバートやメアリがいたら確実に止めるか、説教するかしていただろう。


しかし、残念なことに、そしてユイにとっては幸運なことに、ここにはアルバートもメアリもおらずユイ一人。

興奮してあちこち撫で回したり頬ずりしていた時、パチリと音がするかと思うほど目があったのだ。



「………えっと、初めまして?」


人間、驚きすぎると言葉もなく固まるものだ。そしてユイの場合、思考も固まり条件反射のように初対面の挨拶を交わしたのだ。




「キュイーーーーッ」


そして驚いたのは毛玉もだ。固まった後、鳴き声?を上げてユイの手の中でぴょこぴょこと跳ねた。

跳ねたといっても両手に抱えられているので上下運動をするのみ。結局動いただけ体力を消耗し抱えられたままぐったりするのだった。




ユイの興奮が治まった頃、毛玉の疲労もどうにか回復した。

が、今現在ユイに抱えられ、頬擦りされたままだ。

実はユイ、部類のもふもふ好きなのだ。小さな頃は家にいた犬を殊の外可愛がっていた。両親が死んだ後、叔母が嫌がるので泣く泣く飼ってくれる人を探し手放したのだ。

その後も家庭環境のせいで飼うことも動物園に行くこともできなかったのだ。

そういう背景もあっての今なのだ。勿論、見るからに獰猛な動物ならユイも近寄りもしなかったろう。だが、見た目は可愛らしく害があるようには見えないので油断していだのだ。




「キュキュキュゥ、ガブッ」


「〜〜〜っ!」


毛玉はついにユイの親指の付け根に噛みついたのだ。

普通ならここで毛玉を投げ飛ばすなり落とすなり、もしくは叩くなりしたのだろう。だがユイは痛みに堪えそっと毛玉を地面に降ろした。


「…つぅっ、

ごめんね。いきなり抱きしめたり頬擦りしたりして、苦しかったよね?

大丈夫?どこも痛く無い?」


毛玉は驚いた。投げ飛ばされるのを覚悟して噛みついたのに、この少女は投げるどころかそっと自分を降ろし、更に謝ったのだ。

自分は本気で噛みついた。だからよく見ると少女の手からは血が流れている。

それでもその血を拭うこともせず自分に謝ってきているのだ。


ションボリと俯くユイにそっと近寄り傷付いた手をペロリッと舐めた。

ハッとして顔を上げたユイはじっとして舐めるに任せていた。




暫くして見ると血が止まるどころか傷自体なくなっていた。


???


「…これ、君が治してくれたの?」


「キュイ〜」


まるでそうだよと言うように鳴く毛玉にニッコリと笑いかけ


「えっと、さっきは本当にごめんね。それから傷、治してくれてありがとう。


私はユイって言うの、よろしくね」


お礼と自己紹介をした。


「あ、でもそろそろ行かなくちゃ。すっかり遅くなっちゃった。


えっと、君はどうするの?ここに住んでるのかな?」


「キュイ?


キュキュキューイ」


そう言って毛玉はユイの肩に飛び乗った。


「え?

あの、私行くんだけど。ここに乗っちゃうと連れてっちゃうよ?」


「キューイ」


何を言ってるのかさっぱりだが最後の一言はなんとなくいいよ、って聞こえた気がした。だから


「うん。じゃあ一緒に行こうか。

実は一人ぼっちで淋しかったんだ。


それなら名前、いるよねー?」


「キューイ!」


うーんうーん、と暫く悩んだユイはピコンっと閃いた!


「うん!君の名前は




モフ丸だ!

よろしくね、モフ丸!」




ユイはもふもふ好きだが残念なことに名付けのセンスは皆無だった。


「キュキュキューイ」


突然甲高い声で鳴くと真っ白な光に包まれた。そしてなぜかモフ丸に噛まれた左手の親指の付け根が火傷をしたかのように熱を持った。


指の付け根の熱が収まった頃、光も徐々に収まり目を開けて見ると指の付け根に真っ白な複雑な紋様が浮かんでいた。


「へ?何これ?火傷みたいに熱かったけどこれ火傷の跡じゃないよね?」


『それは契約紋だよ』


頭の中に直接語りかけるように声が聞こえる。


「へ?あれ?モフ丸が喋った?

え?契約紋?って言ったの?」


『うん。念話っていってユイの頭に直接声を届けてるんだよ。


ユイ、さっきは噛んじゃってごめんね』


「ううん。私の方が悪かったから謝らないで。

それよりこれはどういうこと?今更だけどモフ丸って何?」


本当に今更である。


「あ、でもとりあえず街に行かなくちゃ。手紙置いてきたけどもし誰か来たら困るから。



モフ丸、街まで行くけどいい?」


早起きしたので恐らくまだバレてはいないだろうが用心に越したことはない。


『うん。じゃあ軽い説明だけ移動しながらするね。




僕はエンゼル・ヘアって言う種族なんだ。って言ってももうこの世界には僕だけかなー?

特性はさっきもしたみたいに治癒ができる。どの程度かはまた説明するね。

で、その紋様だけど契約紋って言って名前をつけることによって契約が成立してその人の契約獣になることで身体のどこかしらに浮かび上がるんだ。

見えないけど僕にもあるはずだよ?


普通魔物は街には入れないけど人と契約することによって入ることができるんだ。


ここまではいいかな?』


ユイはふむふむ、と話を聞いていた。一応契約獣については習った。なので知識としては知っているがこの契約紋については知らなかったのでマジマジと自分の手を見つめてしまう。


「うん。多少は習っていたから多分大丈夫かな?


ていうか、今更なんだけど多分私が勝手に名前つけちゃったからだよね?良かったの?」


『うん。

元々昨日の夜、ユイの甘い香りがして契約して欲しくて近寄ったんだ。だからとっても嬉しいよ』


「甘い香り?」


そう言って自分の腕をクンクン嗅いでみる。


「あっ!昨日お風呂に入ってない。臭いよね?臭かったよね?ごめんね〜っ」


乙女としてお風呂に入っていないのに匂いを嗅がれるなんてあり得ない!とショックを受けるユイ。


『違う違う。ユイの匂いっていうか、ユイの魔力の匂い。すごく甘くて優しい匂いがするんだ。側にいるだけで幸せになるくらい!』


なんじゃそれは?ともう一度嗅ぐけどやっぱりわからないユイなのでした。




やっぱり出てきました、もふもふ〜♪

生き物好きの私としては割と何かしら出てくるのです。そしてあまりファンタジーに詳しくないのでなんちゃって設定です!あまり深読みしないでくださいませ。

ちなみにエンゼル・ヘアとはケサランパサランのことです。初めて知ってこちらの名前を使いたくなってしまったのです!

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