10
やっとユイサイドのお話が始まります!
ーー時はユイがユーカと出会った夜に戻る
ユイは夕食後いつになくアルバートにお茶を勧めた。
アルバートはユイがこの世界に来た時、タイラーがユーカだけに声をかけ置いていかれそうな不安な気持ちの時に現れ、優しく言葉をかけてくれた。
それだけでなく怖くて不安で涙が止まらず、足に力も入らず歩けないユイを文句を言うでもなく抱えてあの部屋から連れ出してくれ、その後もずっと安心させるように背中を撫でてくれていた。
その後も一緒に食事を摂ってくれたり、話を聞いてくれたり、楽しい話をして気持ちをほぐしてくれたのだ。
おかげで思ったより早くこの世界に慣れることができ、それ以上に前向きに考えることができるようになったのだ。
だから、最後にどうしてもちゃんとお礼が言いたかった。
多分何に対してのお礼かはわかってなかったと思うけど、言えたことでこれで何も気にせず出て行くことができると思ったのだ。
(アルバート様、メアリ、騎士様、王様に他にもお勉強を教えてくれた人や、えっと他にもたくさんお世話になった人、本当にありがとうございました。
どこまでできるかわからないけど、私ができること、頑張ってやってみようと思います)
部屋の真ん中に立ち心の中でもう一度お礼を言って扉の方に向かって深々とお辞儀をした後、窓に向かって歩いた。
(えっと、とりあえず誰にも見えないようにして、と。これなんて言う魔法かなぁ?まぁ普通に消えろとか思ったらできるから良いのか?こんなことならもっとファンタジー系のお話詳しく読んどけば良かったなぁ。
よし消えたよね。
あとは、あれあれ!一瞬で場所移動できるやつ!
あ、転移だ!
空も飛べるみたいだけどまだそんなに長く飛べないし転移がいいよね。
じゃあとりあえず見える範囲か一度行ったとこじゃないと行けないみたいだから………あ、ここから見えるあの森?の入り口まで行こう!)
これまで習ったことの他にもアニメや漫画、小説で見たことや聞いたことのある魔法を実は夜コソコソと試していたのだ。
ただし、異世界トリップや転生物によくある魔法の知識が豊富で簡単に使える主人公とは違い魔法の名前もどれが使えるかも手探り状態でチマチマと試すしかなかったのだ。
その結果、これは魔法の範疇だろう、と思うことは大概できた。勿論自分の知りうる範囲なので実はファンタジーに詳しくなくても知っているような有名な魔法しか試していない。恐らく他にも考えればできるだろうが、今は誰にもバレず出て行くことが先決だ。
そうして姿を消したあと(と言っても本当に消えているのではなく光の屈折でうまく見えなくなっているだけなのだがそんなことユイは知らないし使えればその原理はどうでもいいと思っているのだ)窓から見えていた森の入り口を頭に思い浮かべ転移した。
「うん、真っ暗ー。とりあえず明かり明かり、と。
よし!
さて、どこに行こう。と言っても夜だしなぁ。どっか洞窟かなんかないかな」
ブツブツ呟きながら森の中に足を踏み入れた。
そうして暫く歩くと大きな木の根元にユイが入れるほどのウロがあった。
(今夜はこの中で寝て、朝になったらとりあえず街まで行こう。確かギルド?とか言うのがあるはずだからそこに行って身分証みたいなのを発行してもらおう。それないと街から出れないみたいだし)
ウロの中は思ったより暖かくリュックの中からお城から拝借した膝掛けを出してそれにくるまる。
ユイはこの一週間でこの国、この世界について詰め込めるだけの知識を詰め込んだ。それは遅かれ早かれユーカから出て行けと言われるのは分かりきっていたことだから、1人でも生きていけるだけの知識が必要だったのだ。
そしてその中には街を出入りするには身分証が必要ということ、身分証はギルドという場所で10歳以上なら誰でも発行してもらえること、魔物や薬草をギルドで売ることによってお金が手に入ること、通貨のことなどなど、必要最低限のことは教えて貰ったことのほか、図書館などに通い詰めて覚えたつもりだ。
(よし、寝よう!でもその前に魔物、は流石にここにはいないだろうけど狼みたいな肉食動物に襲われたら意味ないからね。バリアみたいなのっと………うん、これでよし!
お父さん、お母さんおやすみなさい)
こうして飛び出てすぐお城と目と鼻の先にあるお城を囲むようにある森の中でユイは眠りについた。
補足
なんだかユイのキャラが違うなぁと思ったそこのあなた!ユイはもともとこんな感じで実は結構明るく前向きなのです。ただここ数年の虐げられっぷりからすっかり大人しくなっていましたがユーカから離れ優しくしてもらえたことによって少しずつ本来の姿に戻りつつあるのでした。これから益々はっちゃける?予定です。