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「まぁ、対処しろってのがそもそも無理な話なんだけどね。意図的にこっちを狙ってくる地震とか台風をなんとかしろって言ってるようなもんだし」
そう言って佐治さんはまたうどんを啜り始めた。
「……佐治さんは」
佐治さんの箸は止まらない。
「……佐治さんは、本気で、法山を殺せると思えますか?」
――それでも、佐治さんの箸は止まらなかった。僕は、はっきり言って、法山を殺せるとは思えない。あれは、あのトカゲは、自分自身の死のことをただの眠りに等しい、と言い切った。生きとし生けるもの全てにとっての絶対の終着点。全ての生命が全身を用いて忌避し、全霊を以て逃避するそれを、ただの状態の一つでしかない、と。
佐治さんは箸を止めようとする素振りすら見せず、きつねうどんを完食した。僕はそれを見つめていた。
佐治さんは開口一番、
「黙ってて悪かったわね。うどん、伸びちゃうと最悪だから」
と僕に謝った。
「いえ……簡単に答えられることじゃないでしょうし」
佐治さんはカツ丼のカツ一切れをまた一口で食べると、
「無理ね」
と断言した。