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「――ガチで美味いわね、ここのうどん。正直ビビったわ」
「はい。本当に美味しいです」
佐治さんの顔つきが心なしか柔らかいものになっている気がする。今ならば話を進めることも可能かもしれない。
「――それで、加志間さんのことなんですが」
ピタリ、と佐治さんの箸が止まる。佐治さんはこちらを睨みつけようとしてやめた、という風に視線を動かした。
「親友――少なくとも、アタシにとっては、そうだった」
親友、というと、僕にとっての梓のような関係の人だったのだろうか。そして問題は、法山は加志間さんに一体何をしたのか、ということだ。
「……その、加志間さんは、法山に、何をされたんですか」
バギイ、と木の呻くような音がした。佐治さんの右手の中で割り箸がへし折れていた。佐治さんは割り箸を新しいものに取り換えると、話し始めた。
「――美咲は、私とは結構年が離れてたのよ。一回り以上違った。写真でしか見たことはないけど、優しい顔で外で遊ぶのが好きそうな旦那さんがいて、旦那さんにそっくりな、真っ黒に日焼けしてニコニコ笑ってる中学生の男の子がいて、本当なら、ずっと、幸せだったんだと思う」
「まさか、法山は、加志間さんのご家族まで」
「――まで、じゃない。わざわざ家族を狙ったのよ。あのゴミ野郎は」
吐き捨てるように佐治さんは言った。