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「あの、それだったら雪子さんが使った方がいいんじゃないでしょうか。猛さんと一緒に」
僕がそう言うと、雪子さんではなく猛さんが答えた。
「そこに行ったのはこの店を始める前なんだよ。まぁ休みにしちゃえばいいんだろうけど、なんとなく悪い気がしてね。だから楓ちゃん、俺達の代わりに行ってきてくれないかな?
念のために評判が悪くなってないか調べてみたけど、今もきちんといい旅館みたいだから」
猛さんにそこまで言われてしまったら、とても断ることはできない。
「わかりました。お土産は何を買ってくればいいですか?」
僕がそう聞くと、猛さんと雪子さんは目を見合わせてから、楽しそうに笑った。
「うーん、そうだなぁ。あ、そうだ。確かあそこはお土産の日本酒が結構美味しかったんだよな。俺はそれをお願いしようかな」
「そうね、私はお饅頭をお願いしていい? 小さいやつでいいからね」
宿泊券をもらったこともそうだが、何より猛さんと雪子さんが笑ってくれたということが嬉しかった。暖かな春が心の門を潜って入ってきたような、そんな快い感覚だった。
「わかりました。必ず買ってきます」
僕がそう言うと雪子さんは困ったように笑って、
「もう、そんな肩肘張らなくていいのよ。せっかくの温泉なんだからリラックスして楽しんできてね」
そう言ってくれた。