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「は~……もう、ほんっっっっっと心配したんだからね!? せんせーも佐治とかいう人もいきなり固まって動かなくなっちゃって、本気でお店の人に頼んで救急車呼んでもらおうか考えたんだから!!」
(……よかった。真奈さんには何も悪い影響はないみたいだ)
もしも法山の手で真奈さんが傷つけられていたら、僕は一生自分と法山を呪い続けただろう。ほっと胸を撫で下ろし、ふと、後ろを振り返る。
そこには誰もいなかった。
「――佐治、さん?」
「あぁ、佐治って人ならもう行っちゃったよ。これ以上ここにいてもしょうがないとか言って。ほんとなんなの、あの人」
「……そう」
きっと心に受けた衝撃は僕よりも佐治さんの方が遥かに大きいだろう。だが、僕にはどうしようもない。僕は佐治さんを守り支えられるほど、強くはない。
「真奈さん、佐治さんは他に何も言ってなかった?」
「……言いたくない」
(……言いたくない?)
佐治さんは立ち去る時に、そんなひどいことを言い残していったというのだろうか。
「真奈さん、教えてほしい」
「嫌。意味わかんないし。腹立つし。言ったらきっとせんせーは嫌な気分になるし。だから教えない」
僕は両手と額をテーブルにつけると、
「お願いだ。真奈さん。教えてください」
そう真奈さんに懇願した。