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「だが君は、今私が君の頬に塗りたくっているこの黒い粉よりも自分の命の方が価値がある、と断言することさえできなかった。一体、何故なんだい?」
(……駄目だ、答えられない)
人の命より大事なものはないと、法山に対してそう宣言しておきながら、僕の中には法山の問いに対する答えがない。そのことがどうしようもなく情けなくて、悔しかった。
「僕の頼みを聞いてくれるかい、楓」
ゾッとするほど優しい声色で、法山は言った。
「……お前に、一体どんな望みがあるっていうんだ」
「簡単なことだとも――ただ言ってくれればいいんだ。人間はなんの価値もない、ゴミ以下の存在だと、是非君の口からそれが聞きたいんだよ」
それはあまりにも悪趣味極まりない願いだった。およそ僕が想像できるものはなんだって自在にできるであろう法山の願いが、よりにもよってそんな下らないことだなんて。
「……そんなの、僕を操って言わせればいい。お前には簡単すぎるくらい簡単なことだろう」
法山は無表情で、
「――それでは意味がないんだよ」
と言った。
「君の意思で、君の口から言ってもらえなければ意味がないんだよ、楓。君達の言う愛が金では買えないのと一緒さ」
「……人の命はダイヤが燃えた炭以下の価値しかないと言ったお前が、どうしてそんなことに執着するんだ」
法山は答えなかった――ここを抉るべきなのか、それとも抉らざるべきなのか。