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「一万、円? なんだ、それは、なんのことを言ってる?」
「私のことは覚えていなくても、あの異常は覚えているはずだよ。折角忘れないようにしてあげたんだから。ビべリダエで、君は誰のものかわからない一万円を見つけたはずだ。そうだろう?」
――そういえば、確かにそんなことがあった。
「どう、して? どうして忘れさせなかったんだ。お前だったら、そんなこと簡単だろう」
「――寂しいじゃないか、なんの痕跡も残さず忘れ去られるなんて」
トカゲの口から出る、とても人間らしい言葉。耳から細いガラスの棒を突っ込まれて脳をかき回されているようだ。
「なぁ、楓。君は佐治のことをどれだけ知っているんだい?」
(……佐治さんのこと?」
そう聞かれて改めて佐治さんのことを考える。佐治さんは僕の命を救ってくれた人で、復讐のためにトカゲを殺している人で、そして、そして?
「やっぱり、何も知らないんじゃないか」
「……確かに、僕は佐治さんのことは何も知らない。でも、佐治さんは僕のことを助けてくれた。だから、それで十分だ」
トカゲの目尻が大きく下がる。
「――ハハハハハ、なんて健気なんだ。聞いたかい、佐治? これじゃあ私が気に入るのも仕方ないと思うだろう。なぁ?」
佐治さんは微動だにしなかった。もうトカゲを撃つこともない。