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もしもこんなトカゲと出会っていたなら、たとえ忘れたいと心の底から願っていたとしても叶わないだろう。だが僕にそんな記憶はない。他者の手で完全に記憶を消し去られることのあまりのおぞましさに、足元が泥のように柔らかくなったと錯覚する。
「その子はいいよ。私が思っていたよりもずっとよく成長してくれた。トカゲを殺すということに関しては君よりも大分才能があると思うんだが、どうだい?」
佐治さんは答えなかった。代わりにうつ伏せのトカゲの肩をすくい上げるように蹴って仰向けにすると、顎と口の中に向けて五度引き金を引いた。
――直後、僕の目の前に無傷のトカゲが座っていた。
「ひどいなぁ、佐治。顎と舌を撃たれたら喋るのに困るじゃないか。一応こうやって人の姿を取っているんだから気を遣ってくれなくちゃあ」
トカゲは笑っている。佐治さんの顔からはいつの間にか笑顔が消え失せていた。
「そうだ。会話に加われないのも退屈だろう。私と話をしよう――楓」
トカゲの視線がはっきりとこちらに向けられる。なんの装備もないまま突然宇宙空間に放り出されたような、ほとんど衝撃に近い悪寒。
「……僕は、お前と話すことなんて、ない」
「あの時の一万円はどうした?」
トカゲから突然意味のわからない言葉を投げかけられる。