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佐治さんは片手で持ち上げたトカゲをじっと見つめている。一見してそれには最早なんの力も脅威もないように思える。けれどそれは未だ笑っているのだ。まるで自分がこの世界の支配者であるかのように。
「……念のために確認しておくけど、パン子が今この場にいるのはオマエが色々とやったからよね?」
「あぁ、もちろんそうさ。気に入ってくれたかな?」
トカゲは笑いながらそう答えた。
「は――気に入る気に入らない以前にコイツは何も関係ないでしょ。この場にわざわざ同席させる意味がわからないわ」
「いいや、佐治。君はこの子を気に入っている。そして、だから僕も気に入った。関係は大ありだよ」
佐治さんは大きく振りかぶり、トカゲを喫茶店の壁に投げつけた。轟音の後でトカゲが床へと落下する。
「――あぁ、もう、言っても無駄だってわかってるのに、言わずにいられないわ! アタシだけじゃなくて、周りまで巻き込むのやめなさいよ、このクズ!!」
トカゲはうつ伏せに床に落ちていた。それでも笑い続けることをやめない。
「その子とはもう二回会っているんだ。その子は覚えてはいないけどね」
佐治さんの射貫くような視線がこちらに向けられる。とても、とても恐ろしい。
「――ほんとなの、パン子?」
「……はい、覚えて、ません」