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真奈さんの言葉は嬉しいが、正しいのは佐治さんの方だ。生きていく以上は人間関係を完全に立つのは不可能だが、それでも僕に執着する人を生み出さないよう努力することはできる。僕はそれを怠ったのだ。
「……佐治さんの言ってることは正しいからだよ」
真奈さんは両犬歯を剥き出しにし、目を見開いた。
「わかった。せんせーが言えないなら私がこいつに言ってあげる。あなた、佐治っていったっけ? あなたが正しいのなら、その理由を言いなさい。私が全部否定して――」
「大事なことを言うわよ」
真奈さんの言葉を覆い隠すように、佐治さんは言った。
「今すぐここから消えなさい。アンタが想像すらできないようなひどい目に遭いたくなかったらね」
佐治さんの言葉を、真奈さんは怒りに満ち溢れた顔のまま鼻で笑った。
「――私が高校生だからって、馬鹿にするのもいい加減にしてよ。なんなの、その下らない脅し文句は? そんな程度で私が怯えて引き下がるとでも思った? 私はあなたに脅されるより何百倍も何千倍も怖い目に遭ってきたの。今すぐ帰るとか、冗談じゃない」
流石にこれ以上はまずいと思い、真奈さんを止めようと声をかける。
「真奈さん、ありがとう。でもいいんだ。もう何も――」
――目の前の真奈さんの姿が、ブレる。
(……? 目が、おかしい?)
目を擦り、もう一度真奈さんを見る。
――見知らぬ男性が、僕の向かい側の席に座っていた。