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「平気。私元々そんなにお腹空く方じゃないし、その、せんせーとのディナーが食べられなくなっちゃったら困るから」
そう言われてしまった以上は無理には勧められない。何を注文するか決めようと真奈さんからメニューを受け取り、眺めていると、
「――ちょっと、なんでここにいんのよ」
絶対にここでは聞くことはないと思っていた声が、すぐ後ろから聞こえた。振り返る。細長いキャリーバッグを持った、すらりとした威容。
「佐治、さん……どうしてここに?」
「どうしてって、そりゃこっちの台詞――あぁ、なるほどね、納得したわ」
佐治さんは僕の向かい側に座っている真奈さんを見下ろして、そう言った。
「……せんせー、この人、知り合い?」
「あぁ、佐治さんっていって、なんていうのかな、お世話になってる人だよ」
「……ふーん」
真奈さんはあまり面白くなさそうな顔で佐治さんを見上げた。佐治さんは真奈さんの視線を表情を変えることなく受け止めて、
「――趣味が悪いわね」
と言った。