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鏡を見る度に思う。どうして映っているのは私ではなく、僕なのだろうと。あの朽ちて崩れ、それでも全てが満たされていた家から帰ってきてからずっとだ。本当なら今ここにいるのは、僕ではなく私だったんだと――
右頬に柔らかな感触。
(……なんだ?)
視線を右に向けると、何故か顔を真っ赤にしている真奈さんが視界に入った。
「――顔が赤いけど、どうしたの? 真奈さん」
「……な、なんでも、ない」
「いや、明らかになんでもないことは」
「――なんでもないっ!! せんせーはこれ以上追求しないでっ!!」
先程の感触の正体と、何故真奈さんが顔を真っ赤にしているのか――どちらも気にはなったが、真奈さんからこれ以上追求するなと言われてしまった以上、真相を突き止める術はない。
イルミネーションが始まるまでの時間潰しとして入った都内の複合商業施設は、クリスマス・イブだけあってカップルらしき男女でごった返していた。覚悟していたとはいえ、人混みが苦手な身としては少し辛いものがある。
「……去年だったらこういうの、馬鹿にしてたのになぁ」
真奈さんの呟きが耳に届いた。声には悔しさとも呆れともつかない感情が込められていた。
「真奈さんは、こういうことは嫌いなの?」