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「あ――待って、違う! 違うんだ、僕は、僕はこんなつもりじゃ――!!」
楓の顔には本当しか浮かんでいない。本当の憐憫しか、浮かんでいない。
「――そうね、あなたはもう絶対に救われないってわかっているものね、かわいそうな雪子ちゃん」
目の前で楓の姿が崩れていく。僕の求めた完全が解れていく。
「待って! 待ってよ! お願いだ、待って! 僕は、僕は本当に――!!」
――砂の城が旋風で吹き飛ばされるように、楓と街は僕の目の前から消え去った。僕は万物から置き去りにされたようにただ廃墟の崩れた門のところに立ち尽くしていて、廃墟の玄関のドアは一切の隙間なく閉ざされていた。
携帯にメールが届く。確認する。差出人は母だった。
『楓、元気ですか。お母さん達は元気です。もし帰ってきたければご近所のこともあるから必ず事前に連絡をしてください。くれぐれもよろしくお願いします』
文面を表示している携帯の画面に、涙の雫が次々と落ちる。
「……ごめんなさい、ごめんなさい、お父さん、お母さん。僕が間違えたから……僕は、お父さんとお母さんを幸せにできる、どこも壊れていない私になれてた、はずだったのに、ごめんなさい……本当に、ごめんなさい、ごめんなさい……」
廃墟はただ、僕のことを見下ろすばかりで、二度と僕を救おうとはしてくれなかった。
六 完全の家 終了
※次回の更新は四月を予定しています。