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落ち着かせるために抱き締めたのに、何故逆の結果になっているのか。
「だって仕方ないでしょ!? 抱き締められて僕が守るって言われるとか! 漫画とか映画とかでしか見たことない!」
楓は顔を赤くして抗議してくる。よかれと思ってやったことが完全に裏目になってしまっている。ただ、いつものことといえばいつものことだった。
「……ごめん、ただ、僕は女だよ?」
「わかってるよ! 私だって男の人が好きだし! でも雪子ちゃんカッコいいんだからしょうがないでしょ!?」
キイン、と心の割れる透き通った音が聞こえた気がした。
「――そういうものかな?」
「あ――ご、ごめんなさい。もしかして、その、本気で、傷ついた?」
「いや、大丈夫だよ。慣れてるから」
沈黙。先程までの明るさが嘘のように、楓の表情は暗く沈んでいる。
「……私もね、この身長で色々言われたこと、あるんだ。今はずいぶん少なくなったけど。それにね、私が好きになる人、小柄な女の子がいいっていう人ばっかりで、告白とかしても、全然上手くいかなくて」
楓はあえて自分の心の傷を僕に打ち明けているようだった。僕に対する懺悔のつもりなのだろうか。だとしたらそれは見過ごせない。
「楓、本当に僕はそのことを気にしてないから。だから無理して辛いことを話すことはないよ」
「無理じゃ――! ない。私も、雪子ちゃんに聞いてほしくて、知ってほしかったの。雪子ちゃん、見た目もそうだけど、なんていうか中身も私とすごく近い人みたいな気がするから……」
――近いのではなく、彼女はきっと僕と同一なのだ。とはいえそのことを今ここで言ったとしても彼女には届かないだろう。