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そう言って楓は微笑む。
「そりゃあ傍から見てる人はさ、馬鹿にするのなんて簡単だけどさ。でも本人からしてみたらどうしようもなく大切なことだったりするわけじゃない。雪子ちゃんにとってはここに来ることがそれだったってだけでしょ?」
視線を上げる。楓の体勢が元に戻る。
「だったらさ。きっと雪子ちゃんはここに来るしかなかったんだよ。後はどうやって雪子ちゃんの一番大事なものを手に入れて、ここから出るかを考えるだけ! でしょ?」
楓は両手で僕の右手を握ってきた。右手に振動が伝わってくる。
「……楓?」
「ご、ごめんね。私、雪子ちゃんのこと守ってあげられるーとか偉そうなこと言ってさ。本当は怖くて、不安で、さっきまではなんとか我慢できてたんだけど、雪子ちゃんと話し始めたらなんか、一気に来ちゃって、だからお願い、ちょっとだけ手を握らせて? そうすれば、きっと大丈夫だから」
空いている左手で楓を抱き寄せる。
「え、ちょっ、雪子ちゃん!?」
「――僕は少なくとも楓よりはこういうことに慣れてる。だから、僕が楓を守るよ」
少しでも楓のことを安心させたいと思って口から出た言葉がそれだった。少しの間抱き締めていると、楓の体の震えが止まった。抱き締めるのをやめる。
「少しは落ち着いたかな」
「……ドキドキした」
「え」