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１８

　虚空が嘯くのをやめてくれない。本当のことを思い出させるのをやめてくれない。あぁ、そうだ。そうだよ。僕は、僕はもし、何も奪われなかった本来の自分になれるなら――

　美しく磨き上げられた廊下に踏み込む。廊下には左右等間隔にドアが並んでいた。数は少なくとも数十、あるいは百に届くだろうか。

（これだけの数のドア、それに空間がおかしくなっている以上、これらのドア一つ一つがこの廊下と同じような廊下に繋がっていても不思議じゃない）

　もしそうなら最悪僕はこの廃墟の中で遭難し、餓死するという結末を迎えかねない。まるで廃墟の構造自体が僕の失われたものに対する執着の重さを量っているように思える。

（一つだけだ。まず一つだけ、ドアを開けてみよう）

　その結果次第でこれからのことを判断しても遅くはない。まだトカゲから明確な攻撃は受けていないのだから。一番近いドアのドアノブを掴む。捻ろうとして――ドアが開く音が聞こえた。

（――誰かいるのか！？）

　音のした方へ視線を向ける。僕の立っている場所から二十ｍほど離れたところのドアから、人影が現れる。

（……女性？）　

　背の高い女性だった。服装は白のタートルネックにデニム、有名ブランドのスニーカーと若々しい。穏やかな茶色の髪は胸まで届く程度に長く、顔立ちは若いどころか幼いとすら形容できそうだった。

　視線がぶつかる。女性の顔がはっきりと見える。

（ありえない）