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翌日、携帯のGPS機能を頼りに問題の住所へと向かう。その道中で思い出すのは、喪服の女に追いかけられ、生きるために必死で逃げ回った記憶。
(そうか……このまま行くと、きっと辿り着くのは)
歩けば歩くほどに予想は確信へと近づいていった。そして目的地に辿り着く。あったのは、喪服の女から逃げている途中に見た廃墟だ。
携帯で住所を確認する。間違いなくここだ。
(――どうして、僕はここに来ようと思った?)
昨日からずっと自問自答を続けている。巨大な危険があるだけの、およそなんの見返りも期待できないこの場所に、どうして僕は来た?
門は錆びて崩れ落ちている。そこを踏み越えて廃墟の敷地に入る。何も起こらない。今ならまだ引き返せるというのに、足は止まらない。
『え~、楓ちゃんわかるでしょ~? ここに楓ちゃんがいーーーっちばん欲しいものがあるんだからさぁ』
虚空が歪な声で嘯く。僕の欲しいもの。僕の一番欲しいもの。手に入らないとわかっていても、それを求めたら破滅するだけだとわかっていても、それでも縋りつかずにはいられないもの。
目の前にはドアノブの取れた玄関のドアがある。ドアはわずかに隙間を開けている。およそ人の気配の全くないこの廃墟に入るためのドアこそが、僕にとっての死線なのだと理解する。
――それでも僕は、ドアの端を掴んで開けると、廃墟の中に入った。