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文明トカゲ  作者: ペン牛
六 完全の家
137/263

15

(迷塚さんは自分が完全になった、と言った。そもそもその意味がわからない。完全になる、というのはどういうことだ?)

 迷塚さんの言動と梓から聞いた話から推測すれば、迷塚さんが僕達に見せていた騒々しいまでに賑やかな姿が完全な自分、ということになるのだろうか。

(でもそれじゃあ完全、というにはなんというか程遠い気がする。完全なんて言うからにはただ明るくなったとかそういうことじゃなくて、もっと根本的に欠けていたあらゆるものが埋まるような――)

 

 ――もしも何一つ欠けずに大きくなれてたらって楓ちゃんはずっとそのことばかり考えてたんでしょ? ――

 

 空想の声が確かに僕の耳朶を打った。それは実体がないのにへばりつくようなひどい不快さだった。

(迷塚さんの言ったことが僕を混乱させるための適当な発言じゃなくて、僕と喪服の女のことを知った上で僕を標的にするために言ったことだとしたら)

 もしそうであるなら、これは間違いなく罠だ。一体何をされるのか知れたものではないが、きっと完全になった僕、というのは人間かどうかすらも怪しいおぞましいものだろう。

(佐治さんに相談したらまず確実に止められるな。そもそも相談できないし)

 先日の火津木さんの一件の後、佐治さんはすぐに、

『今度はしばらく岡山行ってくるから。自分の面倒は死んでも自分で見なさい。じゃね』

 と言って音沙汰がなくなってしまった。

(まぁ、いつまでも佐治さんに頼ってばかりはいられないし、それに今の僕は一応だけど、トカゲを殺せる側の人間だ。だったら――)

 だったら、どうだというのだろう。こんな隠されてもいないような罠に、自分から飛び込むというのだろうか。一体何故、

 ――まさか本当に、僕の中から持ち去られた全てが、繭原市南酒木町花槌五九丁目二番地三三号にあるとでも思っているのか?

立ち上がって洗面所に行くと、勢いよく顔を洗った。そして迷塚さんの言った場所へ向かうという僕の決意は、雨を飲み干す土のように固まっていった。

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