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(迷塚さんは……ただ意味のわからないことを言ってるだけなのか? それともトカゲが関わっている?)
喪服の女が死んでから今日までのことを考えれば警戒しておくに越したことはない。なにより、迷塚さんが送ってきた住所は僕のアパートの近所だ。迷塚さんには僕のアパートの住所を教えていない以上、偶然で片付けるのには無理がある。
(梓からも情報をもらっておいた方がいいだろうな。ただ上手く聞き出さないと)
僕は梓をトカゲにまつわる問題に十分巻き込んでしまっている。それでも梓のことを考えれば本当のことは話せない。もし僕が梓の立場だったら、と思うと情けなさで息が苦しくなる。
(……できることをやるしかないんだ。それがどれだけちっぽけなことでも)
梓とのやり取りを再開する。
『梓、迷塚さんのことなんだけど、最近変わったことはなかった?』
『変わったことって? 例えばどういうこと?』
『その、急に性格が変わったとか、よくわからないことを言うようになったとか』
『……楓、どうして急にそんなことを聞くの?』
『実は迷塚さんから健康食品の販売会に行かないかって誘われたんだ。人生が変わるから是非試してみてほしいって勧められて』
『え!? それって……本当に先輩がそんなこと言ったの?』
『うん。正直、話すのは迷ったんだけど、それでもこのまま黙っていて梓に何かあったらと思うと心配で。それでどうかな? 心当たりはある?』
『えっと……あ、でも先輩と知り合ったばかりの頃は時々違う人みたいに静かになっちゃうことがあったような……楓に言われてやっと思い出したくらいだから、ほとんど意識はしてなかったと思う』
(梓が大学に入学してまだ精々半年……もしも梓が教えてくれた違う人みたいに静かな、というのが迷塚さんの本来の姿だとしたら、トカゲを候補に含むなんらかの影響を受けたのはごく最近のことか)