12
『あの、これはなんですか?』
『え~、楓ちゃんわかるでしょ~? ここに楓ちゃんがいーーーっちばん欲しいものがあるんだからさぁ』
(なんなんだ――この人は、何を言ってる)
『なんですか、僕の一番欲しいものって。そもそもどうして迷塚さんがそんなことを知ってるんですか? 僕達は今日会ったばかりなのに』
『もしも何一つ欠けずに大きくなれてたらって楓ちゃんはずっとそのことばかり考えてたんでしょ? それとも毎日毎日考えすぎて自分がそれ本当に考えてるかどうかもわかんなくなっちゃったかな~?』
――心を直接手で握り締められたと錯覚する。どうしてだ、どうして、この人の言葉はこんなにも容赦なく僕の心を――!!
『迷塚さん、あなたは一体何が言いたいんですか。僕に何をさせたいんですか?』
『何させたいかなんてそんなの決まってるじゃーん。楓ちゃんも完全になってほしいんだよ。私みたいにさぁ』
(……完全に、なった?)
迷塚さんの言動は支離滅裂なのに、僕に何をさせたいのかだけは異様に明確だ。それがかえって恐ろしい。
『絶対行った方がいいと思うけどなぁ。楓ちゃん苦しいのは嫌でしょ? 今のまま生きていたくないでしょ? だったら繭原市南酒木町花槌五九丁目二番地三三号に行こうよ。そうすれば私みたいに完全になれるんだよ? ね、楓ちゃん』
喉が焼ける感覚。どうやら胃液が逆流したらしい。このまま迷塚さんとやり取りを続けるのは毒に浸り続けるのと同じだと判断する。