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「……美味しい?」
「うん。南の方の果物はあまり食べないからね」
「よかった……楓と初めてお弁当食べた時は逆だったよね」
「……逆って?」
梓は一瞬寂しそうに微笑むと、
「うん、覚えてないよね……私が楓のお弁当を見て、美味しそうなお弁当だねって言ったら、楓が食べたいの? って真顔で聞いてきたんだよ」
全く記憶がない。だが残念なことに当時の僕なら十分やりそうだった。
「ごめん、そんなことやってたのか……それで、梓はどうしたの?」
「……私、びっくりしてうんって返事しちゃったの。そしたら楓、どれでも好きなのを食べていいよ、って」
そう言うと梓は楽しそうに笑った。頬が熱く痒くなる。痒い箇所を右手の人差し指の先でかいていると、梓はどこか満足げに目を細めた。
「それで楓のこと、ちょっと変わってるけど優しい人なんだなってわかったんだよ」
「……優しいというか、ただ変わってただけだと思う」
「――優しいよ。楓は優しい人。もう本人が何を言っても覆りませんから」
言い返そうとしたけれど、梓はかかって来なさいとばかりに堂々と笑っている。僕は梓に恭順を示すかのようにパフェに乗っているマンゴーを食べた。
シャッター音。