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有無を言わせぬ、とはこのことだと思った。もし梓を本気で怒らせてしまった時は大人しく諦めよう、と心に刻む。
「そ、そーだ、私さっきからずっとトイレ行きたかったんだよねー、邪魔者は退散するから二人で仲良くってひぃっ!?」
梓の目が一瞬で人間から真蛇のそれに変わる。ちょっとした恐怖映像だった。迷塚さんは逃げる泥棒のようにトイレへと消えていった。梓はそれを見送ると、僕の方に向き直った。憂いを湛えた顔で、梓は僕に頭を下げた。
「楓……私の方こそごめんなさい。元はといえば私が全部悪いのに、楓に怒鳴るなんて……」
「いや、梓に悪いところはないと思うけど」
そもそもこの問題の根本は梓のサークルの人達が梓の言ったことを全く信じなかったことだ。梓の彼氏はいないという発言さえ信じられていればこんな面倒な事態にはならなかったのだから。
「でも、楓を巻き込んじゃって……本当ならこんな下らないこと、私一人で解決しなくちゃいけないのに」
「下らなくはないよ」
「……え?」
「梓が悩んでるのなら、どんな些細なことだろうと、下らなくはないよ」
梓の顔が赤くなる。これは恥ずかしさによるものか、それとも怒りによるものなのか。どうにも判断できない。