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「え、それだけ? 流石にそれ普通すぎない? もうちょっとドラマチックな展開ないのかよ~。不良に絡まれてたあずさんを楓ちゃんが助けたーとか、男子から告白されてるあずさんを楓ちゃんが横からかっさらったーとか」
「――ありませんっ!! 先輩いい加減にしてくださいっ!!」
梓の渾身の怒声も迷塚さんには全く響いていないようで、ちぇ~などと呟きながら自分のメロンソーダの泡をしげしげと眺めている。
「でもさーあ? あずさんだって理由もなく楓ちゃんとお弁当食べようとしたわけじゃないっしょ? その理由っていうのを皆知りたがるんだけどー」
「理由……理由って言われても」
「僕も気になるな。どうして僕に話しかけてくれたのか」
「えっ、楓には話したでしょ!?」
記憶を探るがそれらしいものはない。申し訳ないが忘れてしまっているようだ。
「ごめん。思い出せないんだ。もう一度話してくれないかな」
「そうだそうだ、話せ話せー」
梓の恨めしげな視線が突き刺さるが、口に出してしまったものは仕方がない。それに情報を提供しない限り迷塚さんは大人しくしてくれないだろう。
「……私、楓と話すまでずっと、楓は私とは正反対の人なんだって思ってたの」
「正反対? どうして?」
「なんていうか、いつも凛としてて、周りに一切流されなくて……私はいつも周りばっかり気にして、言いたいことも言えなくて、そんな自分が嫌だったから、だから、その、楓に勝手に、憧れてたの」
頬を赤く染めながら梓は教えてくれた。それにしても当時の僕は梓からそんな風に見えていたのか、と思うと照れ臭いを通り越して申し訳なくなる。