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「だったら、君がいない時にそのトカゲを殺そう」
男の表情と言葉に、一瞬思考が停止する。それを見切ったかのように、男は鬼神の仮面のような笑顔でこちらに走って――否、突進してきた。
左手に衝撃が走り、携帯の感触が消える。そして宙に浮く感覚。息苦しい。男と視線の高さが同じになったことで、両手で胸倉を掴まれて持ち上げられているということを理解した。
「私には力があるんだ! そこのトカゲを殺すのに十分な力が! それだけじゃない、他のトカゲだって十分に殺せるんだよ!」
(……この人は、なんなんだ?)
ずっとつきまとっていた違和感。この人の言葉は狂気よりも更に深いところで、本当ではない気がする。
「――あなたは、一体何を隠してるんですか?」
男の顔が激昂した人間のそれに変わる。体がより高く持ち上げられ、床に叩きつけられる、と覚悟した時、コンッ、という気の抜けた音が響いた。
「へ~、すごい、当たっちゃった。アタシ球技の類って全然やったことないんだけど、才能あったのねぇ。そっちの道に進んだ方がよかったのかしら」
僕を持ち上げていた男の両腕から力が抜け、ドサリと床に落とされる。階段の方から背の高い人影がゆっくりとこちらに歩いてくる。そして蛇に似た射貫くような双眸が、ランタンの光を反射した。
「……佐治、さん。どうして」