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「僕のために、命を投げ出してくれたトカゲがいました」
胸を張り、両足に力を込めて踏み締める。
「そのトカゲと僕の間には、なんの関係もありませんでした。それなのに、何度殺されるかもわからない――あるいは永遠に殺され続けるかもしれない運命を、僕の代わりに引き受けてくれたんです」
「君のその記憶がどうして正しいと言い切れる? 記憶の捏造などトカゲにとっては容易いことだ。もし猛獣が街中を徘徊していたとして、君は人を襲っていないのだから放っておけというのか? 次の瞬間には人を食い殺すかもしれないというのに?」
「僕は火津木さんと話をしました。火津木さんが人間として生き続けた理由が、そうすることで喜んでくれる人達がいたからということも知っています――知人を傷つけられて、黙っていられるはずがないでしょう」
心を圧し曲げようとするかのような男の視線。だが決して目を逸らすことなく、真正面から向き合う。