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ある山荘の殺人とヴァイオレンスと名探偵の苦悩

「犯人がわかったぜ!」


 俺は叫ぶ。天から授かった明晰な頭脳と洗練された完璧なロジックによって犯人を特定したのだ。


 ここは山荘『西森荘』。季節外れの大雪によって7人の人間が西森荘に逃げ込んだ。そして、当たり前のように殺人が起きた。謎めいた殺人事件だ。集った人々も真っ青になるほど。


 だが、安心してくれていい。俺は名探偵をやっている。全ての謎は俺に解かれるためにあるのだ。いつものように簡単に真相に到達した。


「だが……」


 せっかく真相に到達したというのに俺の表情はすぐれない。なぜなら、


「犯人は中嶋剛だ……」


 中島剛は身長2m20cmの大男で、普段は格闘家として過ごしていた。彼の拳は小柄な女性の頭くらいの大きさがあり、さながら筋肉の塊だ。殴られたらひとたまりもないだろう。


 彼はここで一人の女性を殺した。被害者の名前は長谷川愛。かつて中嶋と交際していた。そのとき二人の間に芽生えた秘密を隠匿するために中島は殺人を犯したということさえ、俺の推理力は看破していた。


 問題なのは、中嶋が地上最強の男であるということだ。中嶋は米軍の小隊を相手取って戦い、それを殲滅したという噂すらある剛の者であった。彼の手にかかれば人間の頭蓋骨など飴玉同然で、楽々破砕することが可能だった。実際、今回の事件のトリックの根幹に、彼の異常な身体能力がある。そのことも、犯人を特定する手がかりとなった。


 中嶋が犯人であると証明し、指摘するのは簡単だ。いつもの事件ではそうやれば終わらせることができた。だが、今回は事情が違う。俺が犯人を指摘したあと、言い逃れを諦めた中嶋が自棄になり、俺を殴り殺して逃亡を図るかもしれない。


 俺には彼の暴力に対抗する術がないのだ。


 だが、真実は明らかにされなければならない。罪人は裁かれなければならない。


「よっしゃ!」


 俺は覚悟を決める。


   -------------


 深夜1時。誰もいない部屋の入口の死角に俺はいた。


「うおおお死ねえええええ」


 俺は重たいブロンズ像を待ち合わせ場所にのこのこ現れた中嶋の後頭部めがけて振り上げる! だが!


「フン。止まって見えるぞ」


 丸太のように太い中嶋の手によって俺の手首はがっちりと拘束された。一ミリも動かすことができない。


 ミシミシと音を立てて俺の腕が破壊されようとする。


「ギブギブ! もう止めてー! 死んじゃう死んじゃう!」


「……」


 中嶋は止めてくれない。その眼には何人も殺してきた人間特有の冷淡さが滲んで見える。俺も何度も見た事がある。こういうタイプの人間は、一切の躊躇なく暴力をふるうことができる。もう無理だ。俺は死を覚悟する。


「オロロロロ!」


 俺は口から何かを吐き出す。それは毒霧。俺がここに来るまでに備えていたものだ。


「ギョエエエエエエ! 前が見えねえ!」


 中嶋は無限に涙を流し、視界を完全に奪われる。その隙に俺は中嶋の足元に執拗なローキックを決める。いかに屈強な人間といえども、執拗なローの前にはいつか膝をつく。中嶋とて例外ではない。


「グボォ!」


 果たして中嶋は膝をついていた。しかし、彼の硬質な肉体に何度も蹴りをいれた俺の足の方も限界が近かった。コイツが目を覚ます前に早く拘束しなければ。


「ウオオオ!」


 俺は立ち上がる。しかし。


「それで終わりか?」


 そこには眼を開いた中嶋がいた。絶望。


「ウオオ死ね!」


 俺はブロンズ像を手に中嶋に襲い掛かる。


「死ね」


 正拳突き一撃。俺の脳天を直撃する。


「ゴッボゲオオオ!!」


 頭蓋骨から脳が飛び出すのが見える。走馬燈が見える。


 薄れゆく意識のなか、俺は思う。


 探偵としてやっていくのならばこれくらいのリスクは覚悟しておくべきだった。というか、こういった事態に対処するために体を鍛え、武術の一つや二つは習得しておくべきだった。


「ッギュッグッモオアアアアア!!」


 二撃目。俺の頭蓋は粉末になる。


 そもそも名探偵をやろうというのだから、なんの暴力も持たずにいることが異常なのだ。人ひとり殺しているような人間を相手にするのだ。逆上したソイツに対抗する必要があるのだから、暴力は必須だろう。


「ボボッボオゴゴオオオオオ!!」


 三撃目。もはや俺の頭部はショットガンで打たれたみたいになっている。


 すまない。俺のせいでこの山荘にいる者は皆殺されるだろう。俺はつい今しがた失われた目から涙を流しながら懺悔した。


 こうして西森荘第二の惨劇は幕を開けたのだった。



最近読んで面白かった作品は嘘喰いです

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