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09 将来の目標

 迷宮から出てきた僕は、ゴロリーさんとメルルさんと一緒に“ゴロリー食堂”へと来ていた。


 あの後、ゴロリーさんは険しい顔を変えないまま口を開いて言った。

「小僧……言いたいことは色々とあるが、まずはついて来い」

 別に怒鳴られた訳でもないのに、二日前に色々なお話してくれた時とは違って、とても怖いと感じるものだった。


 それはきっと約束を破ってしまったから怒っていると思ったけど、それよりとても哀しそうな目をしていたことに気づいたら、僕まで悲しくなってきた。

 そんな僕にメルルさんが寄り添ってくれたのだけど、“ゴロリー食堂”へ来るまで、ひと言も話すことはなかった。


 店の中に入った僕達は、カウンター越しに僕とメルルさんが座り、反対側からカウンターに手を置いたゴロリーさんがゆっくりと口を開いた。

「小僧……クリストファーよ、まずは無事で良かった。さて、俺に何か言うことはあるか?」

 ゴロリーさんが僕のことを本当に心配してくれていたのだと、この時初めて実感することが出来た。

 そしてゴロリーさんの言葉で[固有スキル]を他人(ひと)に見せないこと、迷宮に入らないと約束したことが次々に頭の中に浮かんできて、一緒に涙まで浮かんでくる。


「や……くぞぐを破っでじまいまじた」

「……どうして約束を破ったんだ? あの日、初めてクリストファーと話をして、約束を破ることはしない子だと思ったんだが?」

 ゴロリーさんは怒鳴ったりはしないで、諭すように訊ねてきてくれた。


「……お、お金、がひづようだど……もう……うだでだぐないがら……ぞれで……」

 僕は思い切って全てを告白することにした。

 しかしゴロリーさんとメルルさんはお互いの顔を見合ってから、僕が落ち着くのを待ってくれて、詳しい話を聞いてくれることになった。



 僕は両親に奉公に出されたこと。

 商人が実は悪徳商人で、奴隷商人だったこと。

 オシッコをもらしたら叩きつけられて死んだと勘違いされて捨てられたこと。

 頭に痛みが走る度に色々なことが分かるようになったこと全てを話した。


「……その話が本当なら、商業ギルドに話をしに行かなければなるまい……が、まぁそれは後でも大丈夫だろう。それよりもクリストファーのことだ」

「クリス君、改めて聞くけど、お家に帰りたくないの?」

 メルルさんの言葉で、寂しさがこみ上げてくる。


「……帰りたいです……帰りたいけど……僕は両親の負担になりたくないし、また何処かに奉公や売られたりするのは嫌です」

 目に涙が浮かんでくる。


「あっ……えっとごめんさなさい」

 メルルは謝りながら僕の背中を撫でてくれた。


「……確かにクリストファーの能力なら、大人の助力が少しあれば一人でも生活出来るだろう……両親も苦渋の決断だったとは思うが、その状態を聞くと……」

「ゴロリーさん、クリス君の将来を真剣に考えてあげると、私は今の生活を続ける方がいいと思います。スラムは論外だし、孤児院もクリス君の能力を知ったら危ないです」

「……家には帰さなくていいと?」

 メルルさんの言ったことは、全て僕の考えと同じだった。

 だけど、お家のことを聞くと、お父さんとお母さんのことが頭に浮かんでくる。


「それは……うん。でもそれはクリス君が決めるべきことだと思います。ただの五歳児ならこんなことは言わないです。クリス君だからですよ」

「確かにな。クリストファー、まず先に言っておこう。俺達はクリストファーの保護者ではない。だから全てを決める権利はクリストファー自身にある。それは分かるか?」

「はい」

 ゴロリーさんやメルルさんはとても優しい。

 優しいけど、僕の家族ではない。


「だから本来はこうやって口を出すべきことではない……が、それでもまだ小さな子供のクリストファーには助言をしたいと思う」

「助言ですか?」

「……クリストファー。その能力があったとしても、それでも迷宮は何が起こるか分からない危険なところなんだ。下手をしたら直ぐに死ぬところだ。それでも迷宮に潜るつもりか?」

 前回ゴロリーさんが迷宮について話をしてくれた時も、迷宮がどれほど危険な場所なのかを説明してくれていた。

 だけど僕はその時にした約束を破って迷宮に入ってしまった。

 迷宮は分からないことだらけだし、危険もあると思う。

 それでもやっぱり僕には必要な場所だと思うから、僕は僕の気持ちをゴロリーさんへ伝えることにする。


「……僕はゴロリーさんとの約束を破ってしまいました。本当にごめんなさい。でも僕はゴロリーさんやメルルさんのように人に優しくなりたいです。だから迷宮に潜りたいです」

「……それはどういうことだ?」

 ゴロリーさんは僕の下手な説明でもちゃんと聞いてくれるみたいだ。


「えっと、僕はゴロリーさんやメルルさんと出会ってから、幸運が続いています。美味しい料理に新しい服、お仕事(アルバイト)や魔石を買い取ってもらって、僕は幸運の中にいます」

 そう。もう奴隷になるのを待つだけの不幸の中にはいない。


「迷宮に潜ればお金を稼げます。そしてある程度稼いだら、それからは勉強をして、身体を鍛えて強くなりたいんです。お二人のように、将来困っている子供に手を差し伸べられる大人になるために……」

 誰にでも手を差し伸べることは出来なくても、せめて子供だけには二人のように手を差し伸べられる人になりたいと本当に思ったんだ。


「……そうか。しかし迷宮の中で寝るなんて発想がおかしいぞ。それならまずは俺を頼ってくるだろう。よく安全エリアが分かったな。その場所以外で寝ていたら、とっくに魔物の餌だったぞ」

「……ゴロリーさん、それは私が認めちゃったの。だからそれについて怒るのは止めてあげて」

 ……どうしたんだろう? 二人共顔を真っ赤にしている……でも、嬉しそうに笑っているからいいのかな?


「分かっている。はぁ~それにしてもスライムを生ゴミで釣って、無防備の核を叩くなんて聞いたことがないぞ……。それで今回はどれぐらいスライムを倒してきたんだ?」

 僕は黒い霧を発動させると、頭に魔石の数が浮かんだ。

「低級の魔石が百二十個あるから、百二十匹です」


「それって昨日の倍以上じゃない」

 メルルさんは驚く程大きな声を上げたので、吃驚してしまった。


「なッ!? 五歳なのにそれだけの量を狩ったのか……じゃあレベルも既に幾つか上がっているのか?」

「昨日調べた時点では四でしたよ。あ、能力の説明は私からは出来ない契約を結んでいるので、それはクリス君から聞いてくださいね」

 あ、レベルのことも聞きたかったんだ。


「契約って……まぁいい。クリスがそれだけ魔石を持って帰って来られたのなら、そのスライム狩りが危なくないのは分かった。じゃあ、その[固有スキル]を教えてくれるか?」

「はい。黒い霧が[シークレットスペース]で、まだどんな[スキル]なのか分からないのが[エクスチェンジ]になります。

「二つあるのか……しかもさすがに[固有スキル]なだけあって、知らない名前だな。その[シークレットスペース]があの黒い霧か?」

「はい。もう一つはまだ分からなくて……」

 結局昨日も分からなかった。


「それは成長すればそのうち分かるだろう。……しかしこれだけの量を集めてくるとなると、本当にスライムと戦うのは問題ないのだな?」

「はい。生ゴミを食べさせている間に木の棒でスライムの核を叩くだけだから大丈夫です」

 ちゃんと後ろの確認もしているか大丈夫。


「確かにそれなら問題なく生活は出来るな。生ゴミはタダで手に入るし、もし木の棒が壊れても逃げるだけでいいんだからな。それとも何か代えの武器は持っているのか?」

「……ないです」

 木の棒が壊れるなんて全く考えていなかった。

 良かった。もしこのことに気づかないで壊れたら、僕は危険だったかもしれない。


「う~ん、もしものためにうちでいらなくなったフライパンをやろう。それで叩けば木の棒よりも確実だろう」

「えっと、いいんですか? それに……迷宮に入るのを認めてくれるんですか?」

 僕は心臓は緊張してドクドクしている。


「ああ。だが一階層よりも下に行ったら、二度と店には入れてやらん。それだけは覚えておけ」

「はい。今度こそ約束します。メルルさんとも約束していますけど、ゴロリーさんの料理が食べられないのは絶対に嫌です」

 そんなもったいないことが出来る訳がない。


「そうか。じゃあ朝食にするか。食べ終わったら、生ゴミの【回収】を頼んだぞ」

「はい」

 こうして僕はゴロリーさんとメルルさんから、正式に迷宮の一階層へ下りる許可をもらうことが出来た。

 安心した僕は迷宮で疑問に思ったことを聞いてみることにした。


「迷宮でスライムを倒していたら、身体から力が漲ってきたんですけど、あれはどうしてですか?」

「人の身体にも[スキル]と一緒でレベルがあるんだが、それは分かるか?」

「ちゃんとは知らないです」

 何でレベルが四だったのかも分からないもの。


「そうか……じゃあとても簡単に説明するぞ。人は生まれた時にレベルが一になる。生涯レベルが一って奴も少なからずいる」

 早速分からないことが分かった。

 レベル一から始まるんだね。


「へぇ~。でもレベルが上がるといいことがあるんですか?」

「もちろんある。力が強くなったり、魔力が強くなったり、頭の回転が速くなったりな」

「それなら何でレベル一のまま何ですか?」

 いいことだらけなら、レベルを上げないともったいないと思うけど?


「それは魔物を倒さないといけないからだ。魔物を倒すと経験値になる。そして倒した者の身体にいつの間にか吸収されて、一定量を超えるとレベルが上がるんだ」

「えっ!?吸収……倒し過ぎたら魔物になっちゃうんですか? 困ります。だから皆レベルを上げないの? どうしよう」

「はっはっは。それはないから安心しろ。レベルとは身体の器だと考えてみるんだ。レベルという器に経験値という水を入れる。それがいっぱいになったら、神様が器を大きくしてくれるんだ」

 魔物にならないのか……それなら良かった。

 それにスライムを倒しても身体に力が漲らなくなったのは、それだけ器が大きくなったってことだよね?


「ゴロリーさん、少し大雑把過ぎませんか?」

「むぅ……分からなかったか?」

「ううん、大丈夫だよ。あ、でも寝る前は身体に力が漲っていたんだけど、起きてみたら身体が重く感じたんだ」

 ゴロリーさんは物知りだから、きっと知っているだろうな。


「あ~それはレベルが上がったことで、力が漲ったと錯覚して、動き回ったんじゃないのか?」

「うん。迷宮が空き瓶や腐った木を置いておいていたら、迷宮の中に飲み込んでいくのを見て、僕も飲み込まれるんじゃないかって不安になったから……」

「はっはっは。安心しろ。迷宮は生きているものは飲み込むことはない。それでも色々な物を捨てると罰があたるらしいがな」

「僕は大丈夫かな?」

 急に不安になってきた。


「ああ、大丈夫だろう。罰に当たった奴を俺は知らないからな」

 ゴロリーさんは笑ってそう言ってくれた。

 それなら安心して迷宮でも眠ることが出来るな。


「それでクリスは今日、何をするんだ?」

「メルルお姉さんのところで、文字のお勉強をするんだ。それ以外は生ゴミ【回収】の仕事はないから、やっぱりお勉強かな」

「ほぅ~それはいいな。じゃあしっかり食べて、しっかり勉強して、強い子に育っていくんだぞ」

「はい。これからもたくさんのことを教えてください」

「ああ。それと迷宮から出たら、今度からは毎日メルルのところと、この店に顔を見せにくるんだぞ」

「はい」

 こうして僕とメルルさんは“ゴロリー食堂”で食事をした後、ゴロリーさんのスープをメルルさんが鍋に貰い、それを僕が黒い霧の中へ【収納】してから、生ゴミの【回収】を終えて、〝魔導具専門店メルル”へ向かうのだった。

 優しくて頼りれるゴロリーさんのようになると心に誓って……。


お読みいただきありがとう御座います。

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