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08 守った約束と破った約束

メルルさんに昼食をご馳走になった後、少しだけ昼寝をさせてもらってから、生ゴミの【回収】作業へと向かった。

そして無事に二軒の生ゴミ【回収】を終えた僕は、今日も迷宮の前が見えるところで待機していた。


「やっぱりメルルさんは頭がいいなぁ」

今日の昼食はパンを薄く二枚切って、その中に焼いたお肉と野菜を入れたものと、たくさん野菜の入ったスープだった。

野菜の入ったスープは“ゴロリー食堂”で二日に一度買ってきているみたいで、パンの方は手軽に食べることが出来るようになっていた。

これならお腹が空いた時に食べられる。そう思った僕は、生ゴミを【回収】した二軒のお店で同じようなものが作れないかお願いしたところ、二つ返事で引き受けてくれた。

向こうも作り置きも出来るから楽だって言っていたから、お互いにとっていいことだよね。



「それにしても、何でメルルさんは“これも料理なのよ”って、言っていたのだろう?」

僕は不思議に思いながら、メルルさんには譲れない何かがあったのだろうと思うことにして、迷宮へ入る準備をすることにした。

辺りもだんだん薄暗くなってきたので、一応周囲を警戒して黒い霧(シークレットスペース)を出して生ゴミの量を確認してみると、昨日の三回分の量があった。


「今日はお昼寝もしたし、お腹もいっぱいで元気もあるから、スライムには悪いけど頑張るぞ」

それから暫らくして、今日も見張りの人は松明に火を灯してから少しすると、その場所を離れていった。


「何か決まりごとでもあるのかな?」

そんなことを思いながら、僕は再び迷宮へと足を踏み入れるのだった。


昨日と同じで迷宮は外よりも明るくて、何一つ変わっているところはなかった。

「うん。今日も頑張るぞ」

それから僕の迷宮探索が始まった。

まずは昨日僕が泊まった安全エリアまでやって来た。

そして黒い霧(シークレットスペース)から空き瓶【排出】してみる。


「これで朝に空き瓶が消えた理由も分かるよね……たぶん」

それから僕は、近くにいるスライムを生ゴミと木の棒で倒しながら、空き瓶を眺めていた。

でも一向に何も起きる気配はなかった。


「う~ん。スライムも少ないし、空き瓶の方も何も起きないし……探索しようかな」

僕は何となく空き瓶が気になったけど、空き瓶を見ていても魔石が手に入ることはないので、気持ちを切り替えることにした。


今日は昨日とは違い、スライムを十匹倒しても身体に力が漲ってくることはなかった。

でも、昨日よりずっと木の棒が軽く感じることに少しだけ戸惑いを覚えた。


「あのレベルっていうのが四になっていることが何か関係しているのかな? でも身体に力が漲った回数は三回だし……明日メルルさんに聞いてみようかな」

それから徐々に迷宮を進んでいくと、いつの間にか一周してきてしまったみたいで、迷宮外へと続く階段があった。


「端を歩き続けると一周することになるのか……面白い。でも地下二階へ行く道は階段から下りて直ぐそばにあるから、皆がここを一周することはあまりないかもね」

それから少しだけ歩いて、もう少しで安全エリアに着くところで、本日三十三匹目のスライムを倒したところで、また身体に力が漲る感覚があった。

「あ、力が漲ってくる。これって何なんだろう? 何か条件みたいなものがあるのかな?」

そう思いながら安全スペースの前に戻ってくると、確かに置いていたはずの空き瓶は何処にもなかった。

それに周囲にスライムの影はなかった。


「……やっぱり誰かが拾って片付けたのかな? 今度は違うものを置いてみようかな」

周囲を見渡して誰もいないことを確認した僕は、錆びた釘と腐った木を置いてみることにした。


「これならもし拾う人がいても時間が掛かるだろうし、もう一周してみよう」

身体に力が漲っているし、お腹は少しだけ空いてきたけど、まだ頑張れる。


こうして二周目に突入した。

「別にそんなに急ぐ必要はないよね。さっきはずっとあそこで戦っていたのに、結局は消えなかったもんね」

僕は自分にそう言い聞かせながら迷宮を進んで行くと、あることに気がついた。


「迷宮でも光っていない天井や壁、地面があるんだ。これは何でなんだろう?」

このことも結局は分からずじまいに終わってしまった。

そして今日だけで五十匹のスライムを倒して、昨日よりもたくさんのスライムを倒したところで、二週目の探索を終了してきた時だった。


「あ、まだあった……!?」

僕が置いた腐った木と錆びた釘はまだあるようで、やっぱり誰かが片付けたのかもとそう思った瞬間、突然迷宮の床が揺らめき出すと、腐った木と錆びた釘が床に沈んでいくという恐ろしい光景だった。


「えっ?」

僕は確かに腐った木と錆びた釘があった床に恐る恐る触れてみた。

だけど床はもう何ともなく、ただの床だった。


「……このことは誰かに確認しないと駄目だよね? 僕も迷宮に食べられてしまうかもしれないし……でも、昨日は食べられなかったよね?」

色々と不安になりながらも眠くなるまでは、スライムを倒し続けることにした。


でもその前に、僕は黒い霧(シークレットスペース)から夕食を取り出して食べ始めた。

「うん。ちょっとパンは硬いけど、何とかスープなしでも食べられるな……でも、少しお金が貯まったら、メルルさんのお店で水筒を買うことにしよう」

そして食べている途中で、僕はあることに気がついた。

「何で時間が経っているのにまだ温かいのかな? 黒い霧(シークレットスペース)もまだまだ不思議がいっぱいだな」

そう感じながら、夕食を終えた僕は迷宮の一階をぐるぐる周り、スライムを倒し続けるのだった。


少しだけスライムを倒すことに飽きてきてしまった僕だったけど、僕はメルルさんとスライムを倒す方法を変えてはいけないこと、手を絶対に抜かないことを約束したのだ。

慣れてくるとスライムに集中していた注意力が他に回ってしまって、例えば背後から飛び掛ってくる可能性に気がつかなくなると言われた。


確かに昨日は必ずやっていた後方確認を、今朝は全くしていなかったことを思い出し、メルルさんと約束を交わしたのだ。

一週間怪我をしなかったら“ゴロリー食堂”で昼食を奢ってもらうことを……。

「本当にメルルさんっていい人だよな。何で友達がいないのかな?」

そんな素朴の疑問を持ちながら、魔石が八十六個貯まった時に再び身体に力が漲り、結局迷宮に吸い込まれるのが怖くて、安全エリアで眠りに就いたのは魔石を百二十個貯めた時だった。

「神様、迷宮に僕を取り込まないでください」

ちゃんとお願い事をしてから、重くなった瞼を閉じていった。



目が覚めて最初に感じたのは身体が重くなった? そんな違和感だった。


昨日は眠気に負けて寝てしまったけど、僕は結局迷宮に吸い込まれてしまうということはなかった。

ただ目が覚めて起き上がると、身体は予想以上に疲れているのか、自分の身体が自分のものじゃなく感じたのだ。


「ちゃんと食事もしたし、寝たのになんでなんだろう? これも聞くことにしようかな」

別にどこかが痛いわけでもないし、気分が悪い訳でもないのに身体が重く感じるのは、スライムを倒したからなのか、迷宮で眠ったからなのか判断がつかなかったのだ。

とりあえず僕はスライムが今日も安全エリアにいないことに感謝して、迷宮の外へ向かって歩き出した。


すると、昨日より早く出たつもりだったけど、それは気のせいみたいで、空がどんよりと曇っていたからそう感じたみたいだった。

そのことに気がついたのは、見張りの人はまだ居なかったけど、冒険者らしき人が何人も外を歩いていたからだ。


僕は階段の一番上段に身を屈めて、誰にも見られていないところで迷宮から飛び出した……。

「待て、小僧」

しかし、どうやら身体が重いこともあり、迷宮から出たところを見つかってしまったみたいだ。

恐る恐る声を掛けられた方へ目を向けると、そこには険しい顔をしたゴロリーさんと申し訳なさそうな顔をしているメルルさんの姿があった。

お読みいただきありがとうございます。

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