07 固有スキル
”魔導具専門店メルル”に無事到着した僕は扉を開いて中へ入った。
「メルルお姉さ~ん」
見た限りではメルルさんを見つけることが出来なかった僕は、メルルさんを呼んでみることにした。
……しかしメルルさんの返事はなかった。
「メルルさん、戸締りしないで店を空けたのかな? ……メルルさんだとありそう何だよね……」
僕はとりあえず店の中に入って直ぐの場所でメルルさんが来るのを待つことにした。
たとえアルバイトの内容がお店の中の整理だと決まっていても、雇い主であるメルルさんのいないところで、あれこれ勝手に触るのは問題になりそうだし……。
僕も僕が知らないところで僕の物を触られたら、きっと嫌な気分になると思う。
するとそんな僕の耳にカンッ、カンッ、カンッそんな音が聞こえてきた。
「何の音だろう? 泥棒……なわけないよね? だったらメルルさんはこの音がするところにいるのかな?」
僕は何度か大きな声でメルルさんを呼んでもメルルさんの返事がないことから、悩みながらも音のする方へ向かうことに決めた。
「これも問題だけど、仮に泥棒だったら大変だし、もしそうなら生ゴミをぶつけて追い払おう。きっとそれならメルルさんも許してくれる……気がする」
僕は慎重に店の奥へ進んでいくと、そこには下へと続く階段があった。
どうやらこの階段の下から音が聞こえているみたいだ。
僕はゆっくりと階段を下っていくと、大きくて重そうな扉があり、僕では開けられないことに気付く。
「どうしよう。ここで大きな声を出してメルルさんを呼んで、メルルさんだったらいいけど、本当に泥棒だったら僕が危険だよね?」
少し悩んでから、扉はこちらに引くものであることに気づき、扉が開かないようにつっかえをしてから、中に向かって呼びかけた。
「メルルさ~ん。いますか?」
しかし返事はなく、中で何をしているのか? その音が大きくて僕の声はかき消されて届かないみたいだ。
「う~ん……黒い霧でこの扉を【回収】することは出来るかな? よし、もう一度だけ呼んでも駄目なら扉を【回収】出来るか試してみよう」
「メルルさ~んいますか?」
すると微かに声が聞こえた気がした。
「あれ?」
すると大きな扉が……つっかえを置いていたので開かなかった。
「メルルさん。この中にいますか?」
「いるわ。あれ? 何で開かないの?」
まだ小さな声だけど、はっきりと聞こえた。
僕は直ぐにつっかえを黒い霧の中へと【回収】すると、勢い良く扉が開いた。
「えッ!? きゃぁ」
どうやらどうやっても開かなくなっていた扉を、何とか開けようと思いっきり押したのだろう。
メルルさんは扉が急に開いたことで、バランスを崩して転んでしまったのだった。
僕は自分がしてしまったことで、メルルさんを傷つけてしまったことを深く後悔した。
「あの、メルルさん、本当にごめんなさい」
そして直ぐに謝った。
「イタタッ。クリス君? 何で泣きながら謝るの?」
転んだままメルルさんは急に謝ってきた僕が泣いているのを見て、不思議そうな顔をして立ち上がると、僕の頭を撫でてくれた。
それからお店に入った時から何があったのかを順番に話していくと、メルルさんは笑って許してくれた。
「私も地下の工房にいることを言わなかったし、クリス君には悪いことをしたわ。ごめんなさい」
「いえ、ごめんなさい」
「ふふっ。じゃあお互い様ってことにして、それで仲直りでいいかな?」
「はい」
こうして僕はメルルさんと仲直りすることが出来た。
「ところで何を作っていたんですか?」
「魔導コンロよ。従来の魔導コンロよりも燃費がいいし、魔力を込めれば長い間使える物なのよ」
「魔導コンロ?」
「あ~魔導コンロはまだ普及していないから知らないかぁ。えっとお料理を作る時に火を使うのは分かる?」
「はい。薪をつかうんですよね」
「そう。でも魔導コンロは薪の代わりに魔力を燃料として使うものなのよ」
「へぇ~凄いんですね~……ところで魔力って[魔法]を使う時に必要なあの魔力ですか?」
「そう。その魔力よ。[魔力]は魔法を使う人だけじゃなくて、生物には全て魔力があるの。もちろんクリス君にもあるわよ。だけど魔力を操るのはとても難しいの」
「僕にもあるんだ。でも魔力って何処にあるの?」
「身体の中にあるわよ。でもそれを見つけるには、たくさん[魔法]の勉強が必要なの」
「そうか。じゃあこの魔導コンロを将来買ったとしても、僕には使えないんだね……」
「ふふっ。昔は確かに魔法使いしか使えなかったんだけど、今はクリス君みたいに魔力を何だか分からなくても、使えるために改良がされているのよ」
「でもそれだと魔力は?」
「魔石から魔力を供給するのよ」
「魔石から?」
「そう。魔導具にも色々な種類があるのよ」
「そうなんですね。もう少し大人になったら教えてください」
「クリス君でもちょっと難しかったかな」
「はい」
「じゃあそろそろお店の片づけを手伝ってもらってもいいかしら?」
「はい、頑張ります」
こうして”魔導具専門店メルル”の大掃除と商品整理が始まった。
まず僕が”魔導具専門店メルル”にある全ての商品を黒い霧の中へと【回収】していくことが決まった。
ただ実際のところ、この黒い霧がどれぐらいの量を【収納】出来るのか分からなかったので、メルルさんの指示通りに【収納】していく。
しかし黒い霧はどれだけ物を入れても入らなくなることはなく、徐々にお店の中の商品はなくなっていき、ついには全ての商品を【回収】してしまったのだった。
「もう一家に一人クリス君が欲しくなるぐらいの素晴らしい能力だね」
「えっと、ありがとう御座います?」
「フフッ。さて、掃除をしてしまうか」
「僕は何をすればいいですか?」
「あ、掃除は直ぐに終わるから、少しだけ待っていて」
メルルさんはそう告げながら一本の杖を手に持つと、ホコリ汚れのある棚に目掛けて杖を構えた。
「【クリーン】」
そう口にした。
すると杖が少しだけ光って杖の先からキラキラした何かが棚へと飛んでいくのが見えた。
次の瞬間、ホコリや汚れは跡形もなく消えていた。
「凄~い! 今のが魔法ですか?」
「そうよ。でも厳密……正確には違うの。この杖は魔力を込めることで【クリーン】の[魔法]が使える魔導具なのよ」
「それって今朝言っていたきれいにする[魔法]のことだよね?」
「ええ。汚れや臭いを綺麗にしてくれる「魔法」よ」
「これなら直ぐにお店が綺麗になるね」
「本当にクリス君には感謝だわ」
メルルさんはそれから、店の全体に【クリーン】の[魔法]をかけていった。
「はぁ、はぁ、終わった。さてクリス君、黒い渦から何を幾つ出すか言ってから、指定した場所に商品を出してくれるかしら」
そして店の掃除が終わるとメルルさんは激しく動いた訳でもないのに、息を弾ませていた。
「分かりましたけど……。あのメルルお姉さん、何だかとても疲れているみたいですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。少し魔力を使い過ぎて枯渇……魔力が無くなっただけだから。少ししたら魔力が回復して元気になるから心配しないで」
「……はい」
僕は出来るだけメルルお姉さんに協力して頑張ろうと決めて、順番に商品を【排出】していく。
そして全体の八割をお店に並べ終えた頃、メルルさんから声が掛かった。
「クリス君、まだあるの?」
「あと全体の二割ぐらいです」
「そんなにあるの? う~ん、これ以上はさすがに置けないわ。溢れていたのも当然よね」
メルルさんが溢れさせたのでは? そんな些細な疑問を僕は飲み込むことにした。
「じゃあ後は何が幾つ入っているのか、紙に書いてしまうから、取り出しながら教えてくれるかしら」
「分かりました」
ところで便利な黒い霧にも実は弱点が見つかった。
例えば魔導具の名前を僕が知らないと、全て魔道具が[魔導具]と表示されて、形、重さ、大きさ、説明で判断することになり、衣服も形、大きさで判断するしかなかったのだ。
だから思っていた以上に時間が掛かることになってしまった。
開始直後にそのことに気がついた僕はメルルさんに事実を伝えて謝ることにした。
きっと万能だと思ってくれていたから、僕をアルバイトさせてくれたのだから。
「僕がまだ黒い霧をうまく使えないから、時間が掛かってしまってごめんなさい」
「いやいや、クリス君の能力はかなり凄いものなんだよ。それに形状や大きさでだいたいの物は分かるし、その説明が頭に浮かぶ能力は本当に優れたものだから助かるわ」
メルルさんは気を遣ってそう言ってくれた。
だけど、きっと僕がお勉強すれば、もっと黒い霧は使い勝手が良くなる、そんな気がしていた。
それから少しだけ商品の入れ替えをして、僕のアルバイトの作業は全て終了した。
ちなみに僕が今朝まで着ていた服の説明を見て、少し落ち込むことになったけど、それはそっと心の中に閉まっておくことにした。
「それじゃあ早速クリス君の能力を調べましょうか」
「あの、まだ商品が沢山黒い霧の中に【収納】されているんですけど?」
そう。結局二割の商品は、今も僕の黒い霧の中に入っている。
「クリス君はこれからもスライムの魔石をお店に持ち込むのよね?」
「はい。きっとメルルお姉さん以外のところだと買い取ってもらえないから」
作業の途中でスライムの倒し方を説明すると、とても微妙な顔をされたけど、何とか迷宮の一階には降りてもいいと許可をもらった。
それでも幾つかの約束事はさせられたのだけど……。
「それなら商品は預かっておいて。その代わりに私が出来る範囲でだけど、クリス君のお願いを聞くわ。何なら”ゴロリー食堂”で食事をご馳走するわ」
「えっと、文字の書き方を教えて欲しいです。読むことは出来ても、書くことが出来ないので……」
勉強するには、まずあやふやな文字を読むだけじゃなくて、書くことも出来ないといけないと感じていた。
ゴロリーさんの食事にはもの凄く心動かされそうになったけど、思い切って文字の勉強をさせてもらうお願いをしてみた。
「そうきたか~。うん、いいわ。今度お店にきた時に幾つか本を用意しておくから、それを見ながら文字を勉強するといいわ。一日に羊皮紙を一枚あげる。足りなかったら販売するけどいい?」
メルルさんは笑顔で頷くと、文字の勉強を許可してくれた。
「ありがとう御座います。頑張ります」
「うん。クリス君なら大丈夫でしょう。さぁ能力鑑定をしましょう。この水晶玉に触ってもらえるかしら?」
「はい」
僕は言われた通り、水晶玉に手を乗せた。
すると水晶玉が光り、文字が空中に浮かび上がった。
名前:クリストファー
年齢:五歳
種族:人族
レベル:四
[スキル]
交渉Ⅰ
[固有スキル]
シークレットスペース エクスチェンジ
空中に浮かび上がった文字にはそう書かれていた。
そして水晶玉から手を離すと文字はすぐに消えていった。
「メルルお姉さん、シークレットスペースとエクスチェンジってどんなスキルですか?」
「[固有スキル]を二つも持っているのね。それに[交渉]なんて私に必要な能力……それにしても本当に五歳でレベル四なのね……」
どうやらメルルさんは自分の世界に入ってしまったらしい。
「メルルお姉さん?」
「あ、えっと能力については、頭の中で強く念じてみれば分かるものもあるのよ」
「じゃあやってみます」
そしてシークレットスペースと強く念じてみると、黒い霧が生まれた。
「あ、これがシークレットスペースなのか。じゃあエクスチェンジは? ……あれ? これは何も分からないです」
「何か条件があるのかも知れないわね」
う~ん。条件か……うん。考えても分からないし、そのうち使えるようになるのかな?
「クリス君、お昼食べましょうか」
[固有スキル]のことを考えていたら、メルルさんから昼食に誘われた。
「いいんですか?」
「もちろんよ。じゃあ店の奥に行きましょうか」
「はい」
こうして僕は自分の[固有スキル]の名前を知ることが出来た。
黒い霧の[シークレットスペース]と、まだ分からない事だらけの[エクスチェンジ]……。
幸せになれる[スキル]だといいな。
そんなことを考えながら、メルルさんの後ろをついていくのだった。
お読みいただきありがとう御座います。