68 犯罪の有無
お久しぶりです。
本日レベルリセッター三巻が発売日となりましたので、今日から連載を再開させていただきます
まさかこのタイミングでナルサスが自ら出てくるとは思っていなかったので、僕は動揺してしまった。
でもジュリスさんは全く慌てることなく、逆に出てきてくれた事で手間が省けたかのように振舞う。
「今は説明の途中なんですが? 何か用です……あれ? 探す手間が省けましたよ~万年C級冒険者のナルサス」
「あん?」
「貴方にはいろいろと聞かないといけないことがあるので、最初から騎士団の詰め所まで同行してもらうつもりだったんですよ」
「それは俺がワーズの奴と幼馴染だからか? それだけで冒険者の俺まで犯罪者扱いするのかよ」
「なるほど。“俺まで”ということはワーズが犯罪者だとは思っているんですね」
まさかワーズとの関係を自ら口にするとは思っていなかったので、僕は驚いてナルサスを凝視してしまったけど、ジュリスさんは凄かった。
急に出てきた相手に対して一切主導権を握らせることがないのだから。
「そうじゃねえ。俺が言いたいことは「それはここではなく騎士団の詰め所でしっかりとお聞きしますよ」だから聞けよ」
「はぁ~、一体何を聞くというのですか?」
「さっきから犯罪者を見るような目ってのも気にいらねえが……もし仮に冒険者ギルドが出していた依頼を受けてそれが犯罪だとしらずに依頼を完遂していたらそれは罪になるのか?」
「依頼内容をしっかり確認した上で犯罪だと知らなかった場合は罪にならない……「それは良かったぜ」と言うとでも?」
「気付かないなら仕方ないだろ」
「なるほど……。冒険者ギルドではそう教えているのですか?」
ジュリスさんはそこでギルドマスターへ話を振った。
「いや……。その場合はこちらで事実確認を行ない、犯罪であれば依頼内容の確認を怠った冒険者が罰を受けることになっている」
「おいおい、冒険者ギルドが依頼を受理しているんだから、それは冒険者ギルドの責任だろうが!」
「冒険者ギルドはあくまで仕事の斡旋をしているだけだよ。依頼を受けたら冒険者がしっかりと依頼の内容を確認することになっている。もちろん冒険者ギルドも犯罪に巻き込まれた冒険者を擁護はするけど、基本的に冒険者は自己責任に於いて仕事を完結させる職業だよ」
「チッ……まぁいい。おい女騎士、俺は自分が犯罪者じゃないってことを証明出来るぞ」
「それは随分と興味深い。少し調べただけでも貴方は恐喝に強盗、詐欺だけでなく殺人まで犯しているのに潔白だと仰るんですね」
「ああ、そうだ。あんた言っているのは全部が噂だろ? 俺にやましいことなんて一つもないぜ。そうだ! ちょうど冒険者ギルドだったら[審判の宝玉]が置いてあるんじゃないか?」
ナルサスがそう口にした瞬間、あれだけ[審判の宝玉]に自信を持っていたマリアンさんは驚いた顔をしていた。
しかし[審判の宝玉]に欠点があることを知っているかのようにジュリスさんは首を振った。
「[審判の宝玉]ですか……。あんなものは抜け道がたくさんあるからあまり役に立たないんですよね~」
「ああ、そうかもな。だがしかし冒険者ギルドや騎士団ではあの魔導具で罪を犯してないかどうかを判定しているんだろ?」
「確かにそうですが、あれは直接犯罪に手を染めていないと反応しません。例えば殺人や人攫いを教唆しても犯行当時にその場にいなければ[審判の宝玉]は反応しませんからね」
やっぱり抜け道があったんだ……。
「こちらが騎士団の皆さんの手を煩わせないように、誠意で協力してやろうっていうのに酷い話だぜ。ギルドも善良な冒険者を守ってくれよ」
ナルサスの言葉にギルドマスターがゴロリーさんを見てから声を上げる。
「……証拠がないなら冒険者ギルドは全力で冒険者を守るぞ」
「はっはっはっ。とにかく俺は[審判の宝玉]ならいつでも受けてやるよ。騎士団がちゃんとした組織なら捏造した証拠じゃなく、誰もが納得する証拠を持ってこいよ」
そう言ってナルサスは冒険者達の元へ戻ろうとした。しかしそこにゴロリーさんが立ちはだかった。
「爺! どういうつもりだ。俺の道を塞ぐなんて」
「お前が言ったのだろう。[審判の宝玉]を使ってもいいのだと。そこの受付のお嬢さんは[審判の宝玉]を持ってきてくれるかな」
「あ、はい」
ゴロリーさんに言われてマリアンさんは受付に置いてあった[審判の宝玉]を持ってきた。
でも[審判の宝玉]は意味がないんじゃ……。
「チッ、元Aランカーがそこまで言うなら仕方ねえ。見てろ」
ナルサスは躊躇することなく[審判の宝玉]へと手を伸ばし、そして……[審判の宝玉]は何の反応も見せなかった。
「ふむ……反応はないようだな」
「だから言ったろ」
「だが、もしかするとこの[審判の宝玉]が壊れている可能性がある」
「なんだと」
「いや、お主はもういいぞ。この[審判の宝玉]が壊れていないか他の冒険者達に協力してもらうからな」
ゴロリーさんはそう告げ、近くにいた冒険者達の元へ歩み寄った。
「さて一人ずつこの[審判の宝玉]に触ってもらえるか?」
しかし[審判の宝玉]に手を伸ばしてくる冒険者はいなかった。
「ゴロリーよ、どうしてそこまで騎士団に肩入れするのだ」
「ベルガンよ、俺は別に騎士団に肩入れしている訳ではない。どちらかといえばこの街で暮らす一市民として、冒険者を信用したいだけだ」
「信用……か。いいだろう。でもこれで一人も[審判の宝玉]に光が灯らなかったら、その時はどうするんだ?」
「騎士団はとしては謝罪するぐらいでしょうか。あ、ただ謝罪するのもつまらないですから、市民の皆さんの前で謝罪しましょう」
ギルドマスターの問いに答えたのはジュリスさんだった。
「騎士団の威信を賭けるのか……いいだろう。冒険者諸君は協力したまえ。反応がない者達にはギルド内の食事を一週間無料で提供することを約束する」
ギルドマスターのその一言で、ギルド内にいる冒険者達は一人ずつ[審判の宝玉]に触ることになった。
文句を言いながらも[審判の宝玉]に触っていく冒険者がいる中、俯いた顔をして動かない冒険者も多くいた。そのほとんどの冒険者が若くてあまり装備が整っていない様子だ。
もしかすると……そう考え始めた時だった。
ジュリスさんが躊躇っていた冒険者達に向かって何気ない言葉を口にする。
「一応反応があった場合、騎士団で聴取することになります。内容によっては情状酌量することもありますし、罰則後はまた冒険者を続けることも出来るでしょう。そこまで深刻にならなくても問題ありませんよ」
すると今まで[審判の宝玉]に触ることを拒んでいた冒険者達が[審判の宝玉]を触り出し、[審判の宝玉]は次々と赤く発光していく。
朝の時間帯で冒険者が多いこともあると思うけど、それでも若い冒険者が次々と犯罪者になってしまうことにギルドマスターはかなりのショックを受けたみたいで、呆然とした表情のまま震え出した。
「まさかこんなにも……」
「ショックを受けているところ申し訳ないのですが、今回の件では受付をされている方の中に協力者がいることも分かっているので、受付の業務をされている方達には別途話を聞くことになります」
「そんな馬鹿なことが……」
「事実だ、ベルガン。だからこそ多くの真っ当で優秀な冒険者や古参の冒険者達がこの街を離れていったんだ」
「……」
ゴロリーさんの言葉にギルドマスターは俯き項垂れてしまった。
冒険者達のことでこれだけ驚いていたんだから、まさか受付まで共謀していたとは思ってもいなかっただろうな……。
すると面白くなさそうにナルサスが声を上げる。
「どうでもいいけど、俺達はもういいんだよな?」
「ええ、取調べで貴方から教唆されたような言葉が出てこなければ、関わることはないでしょう」
そのジュリスさんの言葉を聞いて面白くなさそうにナルサスがギルドの出入り口へ向かおうとしたその時だった。
「待ってください」
お読みいただきありがとうございます。
大変長らくお持ちいただき申し訳ありませんでした。




