67 ジュリスの説明
冒険者達の情報開示を求めたゴロリーさんはギルドマスターから睨まれ、冒険者達からも怒りと困惑に満ちた視線をぶつけられた。
それでも静かにゴロリーさんの発言を待っている冒険者達が何だかとても異質に見えた。
「ベルガンよ、いつから冒険者の中に混じる犯罪者までを、冒険者と呼ぶようになったのだ? まさか冒険者ギルドが闇ギルドへ鞍替えした訳ではあるまい?」
そんな状況をゴロリーさんはまるで気にした様子もなく、呆れた表情のままギルドマスターの質問に対して質問で返した声がギルド内に響いた。
「当たり前だ。そしてどこに犯罪者がいるというんだい。たとえ疑わしいとしても証拠がない限り、冒険者ギルドは冒険者を守る組織になったんだ……いい加減なことを言うのはたとえ君であっても許さないぞ」
「そうか……。冒険者ギルドは証拠がないなら冒険者を擁護する高尚な組織に生まれ変わったのか……。擁護をするために見返りの条件を出していた昔とはえらい違いだな……」
「当時のことについては……本当に申し訳なく……」
「止めろ。別に謝罪がほしい訳じゃない。はぁ~さっき証拠がないならと言ったな? では証拠があるとしたら冒険者ギルドはどう動くのだ? 冒険者情報を開示するのか?」
「捏造された証拠ではなく、本当にしっかりとした証拠があるというのなら……冒険者ギルドとしても協力せざるを得ない」
「その言葉に偽りはないな?」
「ないさ」
「そうか、それならまずはこちらの情報……証拠を提示しよう。ジュリス説明してくれ」
ゴロリーさんは疲れたと言わんばかりにここでジュリスさんに説明を任せた。
「え~この空気で私が説明するんですか」
「ああ、騎士が話した方が説得力があるだろ?」
「元Aランク冒険者の方が説得力がありそうですけど……」
「仕方ない……三日間の夕食をサービスで手を打たないか?」
たぶん騎士であるジュリスさんが今回のことを説明した方が筋が通ると判断したんだろうな……。それにしてもゴロリーさんは大丈夫かな? 本当に疲れた表情をしたままだ。
「分かりました。ゴロリーさんの頼みということであれば引き受けない訳にはいきませんね。私は騎士団所属の第一隊副隊長のジュリスだ。本日未明、ゴロリー氏と他一名の冒険者に助力いただき、迷宮へと逃げ込んでいた暗殺者ワーズの捕縛に成功し、現在取り調べを行っている」
ジュリスさんの発言に静かだった冒険者ギルドが再びざわめき出した。
ただ僕もジュリスさんがいつの間にか副隊長となっていたことに驚いた。
「そのワーズとやらに冒険者が関わっていた証拠があるのか?」
ギルドマスターは暗殺者のことを全く知らないみたいだ……。
あんまり冒険者にも興味がないみたいだし、もしかするとマリアンさんがギルド内で孤立していることまで知らないのかもしれない……。
「ありますよ。そのために騎士団はワーズを生きたまま捕らえたのですから」
「まさかその者を捕らえたから証拠という訳ではあるまいな?」
するとギルドマスターの言葉に呼応するように冒険者達からジュリスさんへ野次が飛ばされる。
ジュリスさんは俯き肩を震わせてしまった。
僕はてっきり暗殺者を捕らえただけでも証拠になると思っていたから、ギルドマスターが証拠として認めなかったことに驚いた。
すると野次の中にはゴロリーさんを中傷する言葉まで混ざり出した。
僕は何とかジュリスさんやゴロリーさんへの悪口を止めたかった。
その時、震えていたジュリスさんが顔を上げて大笑いし始めた。
「あっはっはっは~あ。冒険者ギルドは騎士団を馬鹿にしているのですか? 先程ゴロリー氏が仰った悪徳奴隷商人は既に捕縛済みですし、まだ奴隷になったばかりの冒険者達も保護し証言が続々上がってきていますよ」
「なん……だって……。それではまさか本当に冒険者が冒険者を奴隷商人へ売り飛ばしたとでも?」
ギルドマスターは本当に信じられないみたいで、声を震わせていたけど、何だかギルドマスターは全ての冒険者を信じたいに見える。
「いえ正確には犯罪者が冒険者を、ですね。まぁそれはそうとして元高ランク冒険者であるゴロリー氏を貶した人もいたみたいですが、それ相応の覚悟はした方がいいと思いますよ。ゴロリー氏はただの高ランク冒険者ではないんですから。そうですよね~ギルドマスター?」
「……たかが騎士団の副隊長がどこまで知っている」
「それは秘密です……」
「ジュリス、話しが逸れ過ぎだ」
ジュリスさんが語るゴロリーさんを僕は知らないけど、ギルドマスターだけじゃなくゴロリーさんもその話題に触れてほしくないみたいだった。
「あ、すみません。え~と話を戻しますと、今までの証言から暗殺者ワーズと関わりあった冒険者が多くいることが分かっています。その中でも関わり方には三タイプあるらし……」
「おいおい騎士さん、ちょっと待ってくれよ」
ジュリスさんの説明の途中で、冒険者達の中から声を上がり、その声の主が冒険者の中から出てきた。
その冒険者は僕が冒険者ギルドへ入ってからずっと警戒していた相手……ナルサスだった。
お読みいただきありがとうございます。
今回は難産でした。
というのもこの話だけで一週間、あ~でもないこうでもないと書いては消してを繰り返し、この後の話が十通り程出来てしまいました。
そのため今回は中途半端なところで切りました。




