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06 価値

二話目

 僕は仕事を始める前に黒い霧の能力をメルルさんの前で披露することにした。


 まず生ゴミを少しだけ店内に【排出】して、生ゴミが入っていることを確かめてもらってから、直ぐに生ゴミを【回収】した。

 少しだけ涙目になったメルルさんに、事前に説明していなかったことを謝りながら、次にいらない布を貸して貰って黒い霧に【収納】してみせた。

 そして目の前で【排出】して、生ゴミがついていないことや臭いもしないことを証明してから仕事を始めたのだけれど……。


 ”魔導具専門店メルル”と看板には書いてあったと記憶しているけど、お店の一角を【回収】して、品物がちゃんと分別出来ているか確認すると、大半を雑貨が占めていた。


「メルルお姉さん、魔導具屋さんじゃなかったの?」

「”今は”間違いなく魔導具専門店よ。ただ二年前までは母が雑貨屋を経営していたから、その品がたくさん残っているの」

 少し寂し気な顔をしてメルルさんは雑貨屋さんから、魔導具専門店へとお店を新しくしたことを教えてくれた。


 さっきのこともあるし、あまり深くは聞かない方がいい気がして、僕は自分に出来ることをメルルさんに伝えることにした。

 「へぇ~。あ、じゃあ品物は雑貨と魔導具で分けた方がいいですか?」


「そうね~、一旦全部その黒い霧の中に【収納】してもらってもいい? 出来れば掃除した後で並べていきたいのよね」

 確かにそっちの方が早く終わりそうだと僕も思う。


「いいですよ。でも、それは別件のお仕事を終えた後でもいいですか?」

「別件?」

「はい。昨日色々な食堂を回って、生ゴミの【回収】をする代わりに、一食ご馳走になる約束をしたんです。生ゴミを【回収】するのは、これからも必要ですから」

 せっかく昨日頑張った交渉を無駄にすることはしたくなかった。


「あ~そういえば食事は生ゴミを【回収】する対価としてもらうんだっけ?」

「はい。約束はどんな些細なものでも、守らないと信頼を失くします。だから先に約束した方を優先したいんです」

 僕は自分の考えをしっかり伝えれば、メルルさんは分かってくれると思って話をしてみた。


「クリス君は商人みたいなことを言うのね。でもそれは正しいわ。(……本当にクリス君は捨てられたのかしら? とても信じられないわ)」

 何か最後の方にボソボソ聞こえたけど、メルルさんはやっぱり優しい人だったみたいだ。


「それでは一旦回収した物を順番に出していくので、メルルお姉さんは品物を並べていってください」

「う~ん……陳列はいいかな。クリス君のことを信じて、回収した物は預けておくわ」

「えっ~」

「ふふっ クリス君は約束を破らないんでしょう? それなら食堂の生ゴミを回収したら、またお店に来て頂戴」

 メルルさんがいい人過ぎて僕は心配になってきた。


「メルルお姉さんは人を疑うことを覚えた方がいいと思う」

「あら、これでも人を見る目はあるつもりよ」


 そう言われたら、僕も引き受けるしかなかった。


「分かりました。それじゃあ、朝の仕事が終わったら、また”魔導具専門店メルル”へお邪魔します」

「うん。待っているわ。あ、そうだわ。その前に魔石だけど、低級の魔石は一つ銅貨三枚になるわ。お金のことは知っているかしら?」

 その瞬間、今日一回目の頭に痛みが走る。


「痛ッ」

「クリス君、どうしたの!?」

 あ、メルルさんにも心配を掛けてしまった。


「あ、すみません。少し寝違えちゃったみたいで……もう大丈夫です。えっとお金は銅貨、銀貨、金貨、白銀貨ですか?」

 何故か知らないお金が頭に浮かんできたので、それについて話してみることにした。


「惜しいわ。お金はその他に銅板、銀板、金版があるの。銅貨十枚が銅板一枚と同じ価値で、銅板が十枚で銀貨一枚と同じ価値になるわ。この丸いのが銅貨で、この長方形をしたのが銅板ね」

 メルルさんは僕に渡すつもりの銅板を見せてくれた。

 銅貨は丸い形をしていて、銅板は長四角の形をしていた。


「へぇ~そうなんですか。あ、でも銅貨一枚でどれくらいの価値があるか分かりません」

「そうね~クリス君の知っている”ゴロリー食堂”なら、一食で大体銅貨五枚~銅板一枚よ」

「えっ、じゃあ一番高くても十五回近くも”ゴロリー食堂”で食事が出来るんですか!? やった~!」

 頭の中にゴロリーさんが作った料理が十五回分浮かんで、最後だけ量が少なかった。

 それでも一日三回食事をしても五日間も食事が確保出来ることに、喜びしかなかった。


「えっと、クリス君は計算も出来るのかな?」

「う~ん、たぶん? 頭にゴロリーさんの作った料理が並んでいくのを想像したからかな?」

「……そうなんだ。やっぱり優秀ね(何処かの貴族の後胤(こういん)とかだったりするのかしら?)」

 メルルさんはいつも僕を褒めてくるから、嬉しくなるや。


「あ、じゃあそのお金は僕が今度来るまで預けておきます。そうすれば少しはメルルお姉さんも安心でしょ?」

「元から安心しているわよ……でもそうね。じゃあ預かっておくわね」

 うん。これで僕も少し肩の荷が下りそうだ。

 少し早いけど、メルルさんのアルバイトがあるから、そろそろ行くことにしようかな。

「じゃあ、ちょっと行ってきますね」


「あ、ちょっと待って、いくら生ゴミを【回収】しに行くとしても、汚れた服のままじゃ次は断られるかも知れないから、新しい服を着て行きなさい」

「えっと、新しい服を持っていないので……」

「分かっているわ。さっきも言ったけどこのお店は元々雑貨屋なの。だから子供服も扱っているのよ」

 メルルさんは荷物が乱雑に置かれた場所へ向かうと商品? を掘り返していく。

 そして数着の服と小さなブーツを持ってきた。


「これに着替えちゃいなさい。能力を教えて上げるだけで、お店の整理を手伝ってもらうのも気が引けていたからちょうどいいわ」

「えっと、これって新品なんじゃ?」

 僕は今までお兄の御下がりしか着たとがないから、綺麗で新しい服を着ていいのかとても迷ってしまう。


「いいのよ。お店が片付けば子供の服の数着なんて、直ぐに元が取れるし、全部で銅板三枚ぐらいなんだから」

「ゴロリーさんのお店で三回も食事が出来ますよ?」

「う~ん。それならスライム十匹って考えてみるとどうかな?」

「スライム十匹分?」

「そう。スライム十匹分ね」

 そう考えると僕が着てもおかしくないように思えてくるから不思議だな。

 ゴロリーさんの料理が三回食べれると思うと高い気がするのに……。


「じゃあこれ下さい」

「だからこれはアルバイトの対価よ。能力を教えるだけだと安すぎると判断したの」

「メルルさん、優しくしてくれるのはうれしいです。でも、メルルさんのお店が無くなると僕はとても困ります」

「あらら、クリス君心配してくれているのね。でも大丈夫。皆に優しい訳じゃないから」

 メルルさんのその笑顔には妙な説得力があって、僕は今回もお言葉に甘えることになった。


 それから着替えを済ませて、今まで着ていた服は黒い霧の中へと大事に【収納】した。

「えっと、どうですか?」

 ちょっとだけ大きいけど、新しい服を着るだけで自然と頬が緩んでしまう。

 それに新しいブーツはとても履き心地が良く、足が痛くなることもなさそうでとてもうれしい。


「うん。ちょっとだけ大きいみたいだけど、良く似合っているわ。それなら孤児に見えないから大丈夫よ」

 どうやらメルルさんのお墨付きをもらえたみたいだ。

「本当にありがとう御座います」

「いいわ。さぁ行ってらっしゃい」

「はい。行ってきます」

 行ってきますって言えるだけで、何だかとても胸が暖かくなるのを感じながら、僕は ”魔導具専門店メルル”から、仕事へと向かうのだった。



 食堂を二軒回り、一軒目は夕方にしてほしいと言われたので、二件目の生ゴミだけ無事に【回収】した。

 そして生ゴミを【回収】したことを伝えると、あまりの早さに疑われることになったけど、ちゃんと生ゴミが回収されていることを見ると、食事を多めにサービスしてくれた。


「あそこの朝食も美味しかったな。焼きたてのパンも貰えたし、今日はとてもいい日になりそうだな。でもこれ以上は食べられないから、昨日回ったお店で生ゴミだけ【回収】して、後で食事を貰えるように交渉してみよう」

 そしてそれから残りの三軒を回ると、二軒は生ゴミだけ【回収】することになり、”その恰好なら混み合っていなければいつでもいいよ”と言ってくれた。

 残りの一軒目は最初のお店と一緒で、夕方にしてほしいと言われてそれを了承することした。


「……服装で相手の印象が変わるんだな。大事なことを教えてくれたメルルさんにはとても感謝しなきゃいけないな」

 今日の幸運はメルルさんが運んで来てくれたんだから。

 朝の仕事を終えた僕は、再び”魔導具専門店メルル”へと向けて歩き出した。


 そしてもう少しで着こうかというところで、少し殺伐とした空気がする裏路地が目に入り、何気なくそちらへ視線を向けると、昨日大通りまでの案内をしてくれたフェルノートの姿があった。

 よく見ると昨日会ったスラムの住人達がフェルノートとその後ろにいる二人の小さな子を囲もうとしていた。


 もしかするとあの小さな子供達がスラムの縄張りに入ってしまって、フェルノートは助けにきたのかも知れない。

 昨日の恩を返すために僕は意を決して行動に移すことにした。

「衛兵さ~ん、こっちです。小さな子供を攫おうとしていますよ」

 精一杯大きな声を上げてみた。


 するとスラムの住人達はこちらを見てから、フェルノートに何かを言ってその場を離れていった。

 フェルノートと二人の小さな子供は半べそを掻きながら僕のところまでやって来た。


「おはよう、剣聖フェルノート」

「おおう、伝説の騎士クリストファー。今日は助かった」

 フェルノートは泣いていたからか、目が赤いけど、剣聖の名前を出すと、直ぐに笑顔になってくれた。


「僕も昨日助けてもらったからね。でも何でスラムの縄張りに?」

「あ~こいつらがいいニオイがする方向に釣られたらしくて、な」

 しょんぼりしている二人の子供は僕と大して変わらない歳に見えた。


 お腹一杯に食べていなかったら、おいしそうなニオイに釣られてしまうのはよく分かる。

「それは仕方ないね」

「それより昨日は無事に家に帰れたんだな」

「あ~うん。フェルノートのおかげだよ」

「お礼をしたいところだけど、こいつらを孤児院に連れて帰らないといけないから、また今度お礼をさせてくれよ」

「うん、分かった」

「それじゃあな。ほらお前たちもお礼ぐらいは言うんだ」


「「ありがとう」」

「どういたしまして」

 フェルノートに促された赤色と青色の髪をした子供達はちゃんとお礼を言ってくれた。


 それを満足そうに見たフェルノートは別れの挨拶を口にした。

「じゃあな伝説の騎士クリストファー」

「クリスでいいよ。剣聖フェルノート」

「俺もフェルでいいよ」

「うん。分かった」


 フェル達は大通りを”魔導具専門店メルル”とは反対の道へと進んで行こうとした。

 僕は周囲を確認して人がいないことを確認すると、朝食とは別に頂いたお店のパンを【排出】させる。

「フェル、良かったらこれを三人で食べて」

 そう言ってパンを渡す。

「おい、これって……いいのか?」

「うん。僕は今日、ある人から幸せを貰ったんだ。だから幸せのお裾分けだよ」

「ありがとう、クリス」

「「ありがとう」」

「うん。どういたしまして。フェルの言うことはしっかりと聞くんだよ」

「「うん」」


 フェル達を見送り、心がまたポカポカするのを感じながら、再び僕も歩き出した。


お読みいただきありがとう御座います。

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