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05 交渉

 目が覚めると地面が固たいことに気づき、僕は自分がどこにいるのかを思いだした。

「はぁ~あ、うんしょ」


 そのまま大きく伸びをしてから、身体を起こし周りを確認してみた。

 「うん。スライムはいないみたいだね……ただ何で小瓶がなくなっているのだろう?」

 小瓶が倒れた音はしなかったと思うし、人が通ったのなら、声を掛けてくれているだろうし、スライムが吸収したのなら、スライムがこの部屋にいない理由(わけ)ないはずよね?」


 「う~ん……また今度同じことをして調べてみようかな」

 僕は考えるのをそこで止めて立ち上がった。


 「固い地面で寝ても、案外眠れるみたいだね。ただちょっと痛い気もするけど、耐えられないぐらいじゃないしね。じゃあ今日も頑張ろう」

 僕は小部屋から顔を出すと、人やスライムがいないか確認を始めた。


 するとスライムが数匹、遠くで固まっているのを発見したので、昨日と同様にスライムが反応するあたりまで近づき、生ゴミを【排出】してから少しだけ離れる。

 そしてスライムが生ゴミ吸収するのを待ってから、木の棒で核を叩いた。


 「よし。あとはこれがお金になってくれればいいんだけどな」

 魔石(低級)を生ゴミと一緒に黒い霧に【回収】する。


 「さてと、人に見つかる前に迷宮から出ちゃおう」

 それから僕は迷宮の外へ繋がる階段までスライムを倒しながら進み、階段を途中まで上って迷宮の中へと引き返すことにした。


 「夜は松明を焚いていないなんて思わなかったよ。しかもあれだけ真っ暗じゃ、さすがに外の方が怖いや」

 お腹は空いてきたけど、もう少しだけスライムを倒して時間を潰すことにした。


 生ゴミは一度に五kg【排出】させると四kgとなって戻ってくる。

 そのため既に生ゴミの残量は三十kgを切っていた。


 「今まで多くても三匹までしか遭遇してないけど、余裕を持って今ぐらいの量がないと不安だよね。そういえば、この霧の中にはどれぐらいの生ゴミが入るのかな?」

 生ゴミがどれぐらい黒い霧に入るか試したことがないので、もちろん分からない。

 だから今日も頑張って出来るだけ生ゴミを集めることにした。


 起きてから二十四匹目のスライムを倒したところで外の様子を窺うと、薄暗いながらも行動するには十分の明るさになっていた。

 「これ以上ここにいたら、見張りの人が来ちゃうだろうし、お外をお散歩してようかな……早く時間が過ぎないかな」

 街の中を歩きながら、裏路地にだけは入り込まないように色々観察しながら歩く。


 そしてお日様が顔を出してきたところで、昨日初めて文字が読めるようになった”魔導具専門店メルル”の看板が出ているお店の前で掃除している女性がいた。

 「……うん。優しそうだから大丈夫かな」


  僕は周りを確認してから黒い霧を出し、スライムを倒して手に入れた魔石を取り出した。

 「あ、生ゴミが付いていないや……黒い霧ってもの凄く便利じゃないか」

 驚くことに魔石には生ゴミが一切付いていなかったのだ。


 これなら女性も抵抗なく見てくれるだろうと、僕は女性に近づきいて朝の挨拶から始めたることにした。

 「おはよう御座います」

 「あら、おはよう」

 女性はこちらを見て、直ぐに挨拶を返してくれた。


 僕の格好を見て嫌な顔をしなかったので、僕は女性に魔石を見せることにした。

 「お姉さんはここのお店の人ですか?」

 「ええ。ボクもいつか大きくなったら買いに来て欲しいわ」

 そう微笑みながら言ってくれた。


 「はい。優しいお姉さんのお店で将来魔導具を買うことにしますね」

 「あら、ボクはもう字が読めるのね」

 「はい。もう五歳ですからね……。まだ書くことは出来ないけど、読むことなら出来ますよ」

 「五歳で文字が読めるのなら、早い方よ」

 「そうなんですか? それなら良かった。あ、それで優しいお姉さんにお話があるんですけど……」

 「……何かしら?」

 女性はゴロリーさんみたいに少しだけ警戒しながら、ちゃんと話を聞いてくれるみたいだ。


 「お姉さんのお店はこれを買い取っていたりしますか?」

 僕は両手で持った魔石を女性の前に掲げて見せた。


 「えっと、これって魔石よね? 何処かに落ちていたのかしら?」

 「いえ、迷宮に入ってスライムを倒してきたんです」

 「……」

 女性はこちらをジッと見つめる。

 僕も女性をジッと見つめ返した。


 「本当に迷宮から取ってきたのなら、本来は冒険者ギルドで魔石を買い取ってもらうのよ」

 「えっ、それじゃあ冒険者ギルドじゃないと買い取ってくれないんですか?」

 となると冒険者登録が必要になってくる。

 いきなり金策に失敗の影がチラつき出した……。


 「そうね。本来は迷宮に潜るのは自己責任とはいえ、冒険者が取ってくるものだからね……でも、ボクは冒険者じゃないのよね?」

 「はい」

 「お父さんとお母さんは?」

 この質問は冒険者ギルドでも使った答えを使うことにする。


 「昨日捨てられてしまいました。だから冒険者ギルドに行って登録しようとしたら十歳になるまでは登録出来ないって……それで見張りの人がいない夜に迷宮に入ったの」

 「えっと、何だかごめんなさい。ボクも色々大変なことは分かったわ……。これは冒険者ギルドが買い取る値段で買ってあげるから、もう危ないから迷宮には入っちゃだめだよ」

 そう言って女性は僕から魔石を受け取り、魔石を上に向けて覗き込んだ。


 「一階のスライムだけでも駄目ですか?」

 「あのね、誰から聞いたか知らないけどスライムは危険なのよ。魔法が使えるならまだしも、ラッキーで一度は倒せても、二度目はないのよ」

 女性は真剣な目をして迷宮が危険だと説明してくれた。

 ここで女性の言葉を聞いたフリをして、それを裏切ってまで迷宮に入ることは出来ないと思った。


 「一匹じゃないです。全部で五十匹近く倒しました」

 「……じゃあこれと同じものを持っているの?」

 きっと女性は魔石を持っていないと、僕に言わせたいことが分かった。


 そして嘘をつくことはいけないことと、教えようとしてくれているんだろう。

 そうじゃなかったら、孤児みたいな格好の僕にここまでのことは言わないだろうし……。 


 だけど、魔石を見せるには黒い霧を使わないといけないし……どうしよう。

 「持っていますけど、ゴロリーさんが見せるなって」

 ……あ、[スキル]って言い忘れた。

 そう思っていると、女性の雰囲気が少しだけ変わる。


 「ゴロリーさん? あのゴロリー食堂のゴロリーさん?」

 「はい。昨日食事をご馳走になりながら、色々教えてもらいました。お姉さんもお知り合いですか?」

 「ええ、お世話になっているわ。……魔石のことは本当なのね?」

 「はい」

 お姉さんはもう一度確かめるように念を押してきた。


 「それは直ぐに取って来られるの?」

 「……ここじゃ無理です」

 僕はそう言うしかなかった。


 「う~ん、いいわ。一度お店の中で話しましょうか。一応自己紹介しておくわね。私はこのお店を経営しているメルルよ」

 「えっ、店主さんだったんですか? あっ、僕も名乗っていませんでした。クリストファーです。クリスと呼んでください」

 まだ冒険者ギルドで会ったマリアンさんよりも若そうなのにお店を持っていることにとても吃驚してしまった。


 「そう。じゃあクリス君、中に入って」

 僕は何とか自己紹介を終えると、メルルさんは少し笑いながら、店の扉を開いてくれた。

 「はい」

 こうして僕はメルルさんに導かれて”魔導具専門店メルル”へ足を踏み入れた。



 「わぁ~!?」

 中はとても……色々な物が乱雑に置いてあり、何が何だか分からない状態になっていた。

 ここは本当にお店なのかな?


 「……これはあれよ。まだお店が開店するまえだから、整理されていないだけなの」

 「お店が開く前にこれを片付けるのって大変じゃないですか?」

 どうやら泥棒が入ったとかではないみたいだ。


 「……今は大口の注文が入っているから、お店は開けていないの」

 僕はさっきまで黒い霧を出そうかどうか迷っていたけど、お姉さんなら見せてもいい気がした。


 何というか色々残念な人みたいだけど、それでも僕の話を聞くために、自分が片付けが出来ないと宣伝することになるのに、わざわざお店の中に入れてくれたからだ。

 これはとても優しさがないと出来ない行動だと思うし、何だか暖かい気持ちが伝わってきたからだ。


 「……ゴロリーさんはとてもいい人です。メルルお姉さんもいい人だと思いますけど……メルルお姉さんの口は堅いですか?」

 「……私、基本的に店の工房にいるから、あまり人と話すことはないわ。口が堅いかどうかで聞かれると、分からないわ」

 ……どうやら僕はメルルさんの傷口を抉ってしまったみたいだ。


 「……ごめんなさい。えっと、ゴロリーさんから僕のスキルは珍しいから、出来るだけ人には見せるなって教えてもらったの。メルルお姉さんは言わない?」

 「[スキル]関係なのね……分かったわ。決して口外しないと誓うわ。クリス君のことも悪用しないと誓うわ。ちょっと待っていて」

 するとメルルさんは山済みになっている魔導具? を()けていき、一枚の紙を取り出すと何かを書いていく。


 「この紙には契約の魔法が掛けられているの。だから契約を破ったら契約書に書かれた罰が発動するの」

 「そんな怖い契約はしなくていいですよ」

 「いえ、私も魔導具屋を経営しているとはいえ、一応商人ギルドに登録している商人でもあるから、約束は(たが)えたくないの」


 結局メルルさんはそう言って契約書を書き終え、僕と僕の[スキル]を悪用、口外しないことを契約した。

 対価として僕のスキルを見て知ることが出来るようになり、罰は全ての財産の譲渡及び、奴隷になると書かれていた。

 あまりに重い罰に破棄も出来るかを聞いたところ、双方の同意があれば可能であることが分かり、僕は契約を結んだ。


 「それにしても本当に字が読めるなんて優秀ね」

 「ありがとう御座います。メルルお姉さんにそう言ってもらえると自信になります。……それでは魔石【排出】しますね」

 黒い霧を生み出し、迷宮で手に入れた魔石を【排出】していく。

 その数四十八個、メルルさんに渡してあるのと併せて四十九個が今回の成果だった。


 「……クリス君、その[スキル]は大人になるまで、誰にも見せちゃ駄目よ。千人に一人ぐらいの[スキル]だけど、子供のクリス君なら攫われてしまう危険があるから」

 「……はい、分かりました」

 やっぱりゴロリーさんと一緒でとても優しい人だった。


 「でも、なるほどね。ゴロリーさんが誰にも見せるなって言っていたことは納得したわ」

 「……どうしよう。メルルさん、僕は食堂の生ゴミのこの[スキル]で【回収】する予定になっているんです……」

 「う~ん、あ、それなら【クリーン】という[魔法]があるから、それを唱えているように装えば平気よ」

 「はぁ~良かった。それなら大丈夫ですね」

 どうやらメルルさんも色々なことを知っている人みたいだ。


 「そうだクリス君。自分の能力を知りたくない?」

 「能力?」

  「そう。例えばその[スキル]のこととかよ」

  「知りたいです」

 謎にしているよりも、もっと便利な使い方もわかるかもしれないのだから。


 「それならその[スキル]を使って、アルバイトしてみない?」

 「アルバイト?」

 「簡単にいえば私のお手伝いをするってことかな」

 「いいですよ。でも何を? もしかして……」

 「そう。お店の片づけを手伝って欲しいの……」

 「えっと……」

 それはお店の中に入って直ぐに頭の中に浮かんだことだった。

 最初からメルルさんに能力を教えたら、片付けを手伝うのは一食分で手を打つつもりだったので、こちらとしては願ってもいないことだけど……。


 「本当にお願い」

 僕が黙っていると、僕を拝むように手を合わせて頭を下げてきたので、一つだけ条件をつけてみることにした。

 「じゃあこれからも魔石を買い取ってもらえますか?」

 「それはどうやってスライムを倒しているかによるわ」

 どうやらそこまで甘くないみたいだけど、メルルさんはきっと許してくれそうな気がしたので、僕はアルバイトを引き受けることにした。


 「分かりました。それならお手伝いしますね」

 「ありがとう」

 こうして僕はメルルさんのお店でアルバイトすることになった。

お読みいただきありがとう御座います。

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