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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

年上の恋人と大人のお店

作者: ねこ好き

「年下の恋人~」で短く3本あります。

その3です。お話自体はつながっていないので単品で読めます。

 道下冬哉みちしたとうやは年上の恋人の伊勢谷智士いせやさとしと、珍しく外で待ち合わせをしていた。

「ほんとに外はちょっとうぜーからどっか店で待ち合わせしよう」

 そう言われたから、ヒサに教えてもらったちょっといい感じの喫茶店を指定した。少なくとも、高校生が学校の帰りに寄るような店ではなく、冬哉は浮いている自分を感じていた。

(別の店にすれば良かった…)

 せめて、私服に着替えてから来ればよかった。

 冬哉は溜息をついて単語帳をめくった。静かで、ムーディーすぎて、逆に落ち着かない。

 程なくして、入り口の戸が開く音がした。間仕切り代わりの観葉植物の陰でよく見えなかったが、今来た客は背が高いせいか頭が少し見えた。

 伊勢谷だと思った瞬間、冬哉は立ち上がって手を挙げていた。店内の視線が集中しているのがわかり、恥ずかしくなって慌てて座る。

 伊勢谷は冬哉を認めて微笑むと、案内しようとしていた店員を軽く断ってこちらへ大股で歩いて来た。

「待ったか?」

「…少し」

「悪りぃ。出がけに速達が届いて」

 タバコを探るような仕草をしてから、思い出したように頭を掻き、水を運んできたウエイトレスにメニューも見ずに「ホット」と頼んだ。

「まだ、時間あるな…腹減ったか?」

「減ってないとは言わないけど」

「機嫌悪いか?」

「悪くないけど」

 機嫌が悪いわけはない。少し大きい仕事が無事終わったから、美味しいものをご馳走してくれると伊勢谷が言うのだ。

 最初は撮られる側だったらしい伊勢谷は、カメラマンにしては無駄に足が長い。無駄に頭が小さい。無駄に鼻が高い。無駄に……

「なんだよ?」

「なんでもないけど」

 それに間違いなく大人で(そこもいいんだけど)冬哉が居たたまれなかった店内にもすんなり馴染んでいる。斜め向かいの女二人組がチラチラ伊勢谷を見ているのも気に食わなかった。たぶんあとで声をかけてくるだろう。

「お待たせいたしました」

 気のせいかウエイトレスの態度までより丁寧にみえてくる。

「あの…もしよろしければ私がお煙草をお持ちいたしましょうか」

 明らかな好意を見せて、ウエイトレスが伊勢谷に囁いていた。気のせいじゃなかったらしい。

「いえ。禁煙中なんでけっこうです」

「そうですか。出過ぎた事を申しましたでしょうか」

 ウエイトレスはなんとか会話を続けようとしていた。

 ちら、と伊勢谷が冬哉を見た。

 冬哉は無言でジンジャーエールをストローでかき回す。好きにすればいいと言わんばかりの態度に伊勢谷が苦笑するのがわかっても、なにも言えなかった。

 伊勢谷は、意味ありげに人差し指を自分の唇に当てて、ウエイトレスに答えた。

「恋人が嫌がるんでね。苦いからって」

 煙草が苦い――その意味は。

「なっ…そんなこと言ってな……」

 そこまで言ってしまってから、はっと口をつぐんでも遅かった。

 一瞬ポカンとしたウエイトレスも、意味を理解してか「失礼しました」と言って退散していった。最後にチラリと冬哉を見て。

「ムカつく…バカサトシ…」

「耳赤いぜ」

「うるさい」

 目元をほんのり染めた冬哉は、ジンジャーエールをズズッと飲むと、唇を少し尖らせたまま――無造作に親指で拭った。

 ただそれだけの動作だが、――エロい。

 通路を挟んだテーブルの男、通りかかったウエイトレス、そして伊勢谷――が一瞬動きを止めて見入る。

「ったくアブねー」

 伊勢谷は隠すように冬哉の頭をグイと引き寄せると、ガシガシと頭をかき混ぜた。

「なにすんだよ! 髪がぐちゃぐちゃになる!」

「大人を惑わしてんじゃねーよ。今すぐ帰りたくなるだろうが」

「なに言ってんのかわかんない。ご飯連れてってくれるんじゃないのかよ」

 イヤ、連れてくけどさ、と伊勢谷は答える。

 冬哉は訳がわからなかった。実はこんなことはよくあることなのだが、いつも冬哉には理解不能だった。

「とりあえず、行くか」

「うん。行こう。早く」

 早く早くとせかす冬哉は、他の女性に伊勢谷へ声をかけさせまいとしているのがありありとわかるものだった。早くこの場から伊勢谷を連れ出すことにばかり一生懸命で、伊勢谷の我慢が限界に達していることなど、まったく気がついていない。

 伊勢谷が、参考書が詰まった重い鞄を冬哉の手から取り上げる。

「え? あ、自分で持つよ」

「いいって。カメラの機材より、全然軽いぜ」

 冬哉が苦労して持っていた鞄を軽々持っているから、嘘ではないのだろう。

「ありがと」

 すごく嬉しくなって素直に甘えると、伊勢谷は急に足を止めた。不審に思って冬哉は振り返る。

 いきなり腕を引かれ、そのまま頭を引き寄せられた。

 静かな店内には、確実にちゅという音が響いた。

「わり。我慢できなかった」

 硬直している冬哉を置いて、伊勢谷はさっさとレジに向かい、会計を済ませる。

 大人が多い店ゆえか、男が男子高校生に通路でキスしても騒ぎ立てる者はいなかったが、今度こそ顔を真っ赤にした冬哉を不埒な目で見る者は多そうだった。

 もう二度とこの店に来られない、と恥ずかしがる冬哉を守るようにしながら、伊勢谷は店内をジロリと睨み、威嚇することも忘れなかった。


 そんな、バカップルの話。



最後の一行に尽きる。

視点が年下からなので、大人がかっこよく見えています。

年上視点の話だと年下がかわいく見えます。

勝手にそれが大事だと思ってます。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう甘々のバカップル好きです(笑) ボーイズでもガールズでも、ヘテロでも。
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