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異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
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調査開始

 さて皆さん、うちのタブレットについて少し話そうと思う。

 俺の記録を最初から見てくれている人なら、タブレットが何か、この世界のアカシックレコード染みた得体のしれないものにつながっている話は覚えているかと思う。つまり、この世界に関するもので、タブレットから引き出せない情報なんて存在しないはずなのだ。

 にもかかわらず、うちのタブレットは万能ではない。それはなぜか?

 簡単である。

 たとえば目の前にある古いコンクリの壁だが、これは何だと検索しようとしても、あまりにも情報が多すぎて絞り込めないのだ。

 よくわからない?

 では、グーグルでもビーイングでも何でもいい、あなたのよく使う検索エンジンに「毛」と打ち込んでみてほしい。下手すると、何億ヒットという検索結果が返ってしまい、もう少し情報を絞りこまないといけないと気付かされるだろう。鼻毛?ムダ毛?それとも育毛剤?動物の体毛と汗の関係が見たいのか、それともスポーツ選手の剃毛について知りたいのか。あるいは欧州じゃパイパンが文明的と聞いたが本当なのか等。

 情報ソースがあまりにも莫大すぎる時、そこから調べる側、あるいは情報を要約する側にも工夫が必要という事だ。検索するユーザーの嗜好まで読み込んで「もしかして毛遊(もうあし)びですか?」と出すとかね。またはビーチパーティでもいい。

 え、なんで情報ソースが凄いのに、取り出し口がそんな原始的なんだって?

 これも最初の頃に少しアイリスが語ってくれているのだけど、ちゃんと理由があるのだよ。まぁ簡単にいうと、わざと作られたボトルネック、とも言える。

 さて、現状に話を戻そう。

 目の前のコンクリ壁をタブレットで検索するには、もちろんコンクリ壁だけではダメだ。ここの位置情報とコンクリ壁だけでも不足。できればトンネルなり通路なりの工事情報があればベストなのだけど。

 そんな事を考えていたら、

「何か出ました!」

「お?」

 サイカさんのスタッフのひとり、三毛猫のお姉さんが、少し離れたところで手を振っている。

 って、あの位置関係だと……まさか?

「何が見つかったニャ?」

「通路入口かも」

「ニャんと!?」

 ボソッとつぶやいた俺の言葉は、めざとくサイカさんに聞き取られていた。

 おっと。伊達にでかい耳してねえな。

「いや、単に位置関係からの推測だよ?」

「フーム。とにかく見てみるニャ!」

 とにかく駆けつけてみた。

 で、結論からいうと。

「おー、こりゃ確定かな?」

「そ、そうニャのかニャ?」

「ほら、これ見て」

 土の中から、アーチ状になっているものが見える。

「このアーチの作り方もそうだけど、これコンクリじゃなく天然の石でしょ。違う?」

「はい。まだ解析してないですが、近隣でよく採れるラフカーン石かと。経年変化に強い、硬い石です」

「やはりか……」

「どういう事だニャ?」

「天然石は長持ちするいい素材なんだけど、どこかの山を切り崩さないといけないうえに加工に手間がかかるんですよ。だからこう、ピシッと決めたいところにピンポイントで使うっていうのがよくあるんですよね。たとえば銘板なんて言いますけど、記念碑やトンネル名を示したプレートに使ったりとかね。

 俺の世界ではそうなんだけど、どうかな?こっちでもそういう使い方する?ねえお姉さん?」

 発見者のお姉さんに聞いてみたのだけど。

「!?」

 なんか知らんけど驚いてるぞ、お姉さん。なんだ?

「ハチさん、ビーダは男の子だニャ。確かにちょっと線が細い感があるし三毛模様は確かに普通は女の子だけど、だからといってお姉さんと呼ぶのはやめてあげてほしいニャ」

 あー……もしかして三毛オス状態なのか?この世界にもある?

「もしかして、この世界でも三毛オスってあるのかな?」

「ん、どういう事かにゃ?」

 なんか話がそれだしたな。

「えーと、本題じゃないから簡単に言うけど。

 俺の世界じゃ、猫の発色遺伝子の問題で、猫でこの模様はこの性別でしか出ないっていうのがあるんです。そのいい例が三毛猫の模様で、この組み合わせはメスでしか絶対に出ないとされています。三色の色決定に使われている色のひとつが、メスの染色体がないと発色しないからです。

 ところが、そんな俺の世界にも三毛のオスはいるわけなんですよね。すごく少なくて、昔は幸運のお守りって言われていたくらいですけど。

 どういう事かというと、ぶっちゃけると遺伝障害やモザイク等、体質的に女の子、男の子と決めにくい種類の身体の持ち主がそうなるわけです。つまり発色部分などは女の子でありながら生殖器まわりは男の子だったりって実例が実際にあるんです。こういう特異体質をモザイクとか、いろんな言い方をします。とても特徴的なので、遺伝学の本の表紙にもなるんですよ」

「そうニャのか……」

 どうやら本気で初耳らしく、サイカさんどころか他の人も目を丸くしていた。

「もちろん、俺はこの世界の三毛さんの現状を知らないわけです。だから、すごく失礼な勘違いをしている可能性もあるわけですが」

「……」

「……あの?」

「実は」

 沈黙していた三毛のお姉さん、もといお兄さんが、ぼそっと告げた。

「すみません。それとはちょっと違うんですが、その」

「はい?」

「……実はだニャ」

 三毛さんに続いて、サイカさんまでもが苦笑した。

「三毛のオスが珍しくて、しかも変な体質が多いのは事実ニャ。それはそれで貴重な情報ニャ。後で詳しく教えてもらえるとありがたいニャ。

 でも、ビーダはそういう体質ではないニャ」

 ほう。

「断言するって事は……もしかしてビーダさんて」

「そうにゃ。肉体的には確かに女の子なんニャが、心が男の子ニャ。だからガーリーにゃけど男の子って事で通してるにゃ」

 あー、そっち方向のマイノリティだったのね。なるほど。

「そうだったのか……ありゃあ、二重の意味でごめんなさい。悪かったね」

「いえ、こちらこそ」

 三毛さんは恐縮したように頭をかいた。

「ボクが三毛なのも、こんな身体なのも生まれのせいですし。男みたいな女ってバカにされて育ったのも事実ですし……なんていうか」

 あらら。なんだかトラウマまでえぐってしまったみたいだ。

 でも、ひとことだけは言わせてもらおう。

「……あの、失礼ついでに一つだけいいかい?」

「はい?」

「いや、ビーダさんはこんな身体っていうけど、俺視点だとスレンダーな美人猫さんにしか見えないんだが?冗談でもなんでもなく」

「……は?」

 ビーダさんの目が点になった。

「まぁ、猫人族どころか異世界人の意見だからね、そんなもん参考にならんと言われればそれまでだが……マジでそんな事言われたのって言いたいくらいだよ。こんな美人、いや美猫かな?捕まえてそりゃねえだろとしか思えない」

「……」

「……あれ?えっと?」

 なんか、みんなまた沈黙しちまったぞ。俺、何か外したか?

「ほらビーダ、ハチさんにまで言われたニャ。やっぱりその話おかしいニャ?」

「で、でもっ!」

 なんか、話がおかしくなってきたぞ?

「えーと、よくわからないんですが、いったい何があったんです?」

「あー、それはだニャ」

 困ったようにサイカさんが口ごもったが、ビーダさんが反応した。

「いいんです会長」

「……けど、これはビーダのプライバシーだニャ?」

「はい。けど、ハチさんが自分なりに考えてくださっているのは、見ればわかりますから」

「そうか……」

 何かふたりで話していたかと思うと、ビーダさんの方が口を開いた。

「実はですね」

 そういってビーダさんが話した内容は……まぁ要約するとですね、アレでナニでソレだった。

 俺はためいきをついて、真正面から指摘した。

「その男みたいって言った幼なじみサンが、どう見てもビーダさんが好きだったとしか思えない点について」

「……あう」

 いや、あうじゃねえだろ。俺が聞く限りでも照れ隠しにしか聞こえんぞ。どこのラブコメかと。

「ほらビーダ、やっぱり言われたニャ。いいかげんに認めるべきだニャ」

「で、でもっ!」

 あー、そういう事か、ふむふむ。

「すると、アレなわけ?もしかして、そんな事言われたと思っちゃったのがきっかけで、男の子になると決めたと?」

「いえ、それは元々です。ボクは両方とも好きなので」

「ビーダはバイセクシャルにゃ。オスもメスもどっちもアリにゃ。ただ、好きだった男に言われた事でずっと悩んでたニャ」

「……な、なるほど」

 ふむ。猫人族はバイもありですよと。

 あー……なんで俺、こんなとこで獣人族の赤裸々な性模様なんて聞いてるんだろ、いやマジで。

 あとビーダさん、バイとわかったからにはその熱い視線ちょっと勘弁してください。

 女の子に見られているはずなのに、男子っぽい熱視線に悪寒が走るんで、ええ。……腐臭?

 

 

 

 なんか猫人族の恋バナな話で中断があったけど、そこでちょうどお昼になった。

 で、食事のあとに再び再開となったのだけど。

「露出してるのがこれだけだと話が続かないな」

 埋もれたトンネルの入り口って見た事あるかな?

 あの、本来ずっと上にあるはずのアーチ構造が目の前や下にあるのって、なにげにすごいインパクトなんだよね。

 ただ当然だけど、このままでは中に入れない。

 これの中を調べたいと思えば……当然だけど掘り起こすしかないよな、やっぱり。

 さて、どうしようか?

「ここ掘り起こして中を調べたいんですけど、どうしますかね?」

 アイリスとルシアには申し合わせ、特に樹精王系の能力はなるべく見せない事で一致している。例の精霊分もそうだけど、植物系の持っている危険情報は規模の大きなものが多く、洒落にならないから。

 サイカさんたちはあくまで商人であり、親しくともそのあたりの線引きはしておくべきだと思う。プリンさんの時みたいな問題が別枠で起きない保証もないしな。

 で、どうしようかと思ったのだけど。

「私がやりましょう」

 そういって、スタッフの一人であるトラ猫のお兄さんが近づいてきた。

「具体的にはどうするのかな?」

「土魔法のひとつ、土塊というのを使います。土壌から土だけに反応し、これを移動させるものです」

「土だけ?」

「はい。石とか金属、あと生き物も残されますので、こんな場所で使うにはもちろん注意が必要ですが」

 そりゃそうだ。

「悪くなさそうだニャ。建築物は石とコンクリ(・・・・)だろうかラ、万が一少しくらい巻き込まれてもいいだろうシ」

「ですねえ」

「ボイル、任せたにゃ。あと火炎魔法と結界の使い手は前に出るニャ。毒虫とか蛇でもいたら厄介ニャ」

「はい」

「了解!」

 こんな山の土中だもんな、当然の配慮か。

 何人かの猫人さんたちが付近に集まり、そしてボイルと呼ばれたトラ猫さんが一歩前に出た。

 魔力を放ちつつ手をわきわきと動かしている。何かつぶやいているのは、あれが呪文みたいなやつか?

「範囲決定……魔力流し込み、オーケー。

 いくぞみんな、フォローは任せた!」

「やるニャ!」

「『土塊(アズガンド)』!」

 その瞬間、目の前にものすごい光景が広がった。

 たった今まで、きちんと山とか森の一部になっていた部分の土の一角が、一瞬でまるで消し飛ばされたように消えたのだ。

 だけど、本当に凄いのはそこではない。

 なんたって、消えたのは「土だけ」。

 そこにあった石ころやら草やら木やらは、そのままドタンバタン、バサバサと落下しつつ積み上がったわけで。

 しかも、

「やっぱりいた!」

 なんかキシャーとかキュウとか聞こえるぞ。魔物がいたのか?

「攻撃班!すぐ焼くにゃ!」

「了解!」

 そこいら中の猫人さんたちの手から、まるでナイアガラ瀑布もかくやと火炎弾の雨。

 うわぁ……全部ひとっからげかよ。なんていうか……自然破壊だねえ。

 気がつくと、そこには何か黒い山と……そして、たぶん数百年ぶりに姿を現しただろう通路入口があった。

「これはまた……」

「ハチさんは片付けには参加しなくていいニャ。それより入り口を見てほしいニャ」

「り、了解」

 まぁ、確かにそれが理想的な分業なんだろうけど……なんともだなぁ。

 とりあえず、入り口付近を再優先で開けてくれるようなので、準備しつつそれを待つ事にした。

「アイリス」

「なあにパパ?」

「開口部の中を調べあげてくれ。魔物の配置図とか内部の現状とか。やれるだけ(・・・・・)の事を全力でやってくれ」

「ん、わかった」

 ルシアの手も借りつつ、がっちり調べ上げろという意図をちやんと理解してくれたようだ。

 で、それを見たサイカさんは当然反応するわけで。

「竜の力まで借りてくれるのかニャ。いいけど、そこまでされては返しようがないニャ……」

「交通インフラなんて誰のものでもないでしょ?だから手を貸すんですよ。それとも、エマーンで独占して通行料とります?」

「それはさすがにないニャ。ただ調査が終わるまで一般開放はまずいと思うから、通れたとしても直結の通路以外は制限を設けるニャ。これは確定ニャ」

「ああ、それはわかります。バカが入って怪我したらえらいこった」

 ていうか、そういうヤツってこっちの世界にもいるのか。やっぱり。

「人間とは好奇心が服をきて歩いている生き物だニャ。珍しいものが見つかったといえば、チンチーが湧くのはどうしようもないニャ」

「チンチー?」

 なんだそりゃ。

「パパの世界の言葉で一番近いのは……野次馬?」

「なるほど」

 しばらくして、アイリスが一次調査終了を告げるのと、入り口が何とか車を通せる程度に片付いたのは、ほぼ同時だった。

「これは……うちらの調査なら数年分はあるニャ……それに、こんな深いとも思わなかったニャ」

 サイカさんが驚きを隠さない顔をしている。

「この情報では施設の老朽具合がわからないのと、あと、悪意のない待ちぶせタイプの魔物はわからないから注意して。

 このラインにそって進めば車が通るにも問題ないけど、脇道はダメ。何か起きるかわからないよ?」

「アイリス、この最奥部の向こうはデータがないが、これは何?」

「計算違いでなければ、その向こうはクリネル側の発掘現場だと思う。あっちの正確な位置情報がわからない(・・・・・)から推測だけど」

 なるほど。今ぶちぬくと面倒だから後回しってか。

「魔物もいるんだよな。大物はどこにいる?」

「この中央部を見て。ここの奥にいると思う。でもこれは……普通の魔物ではないから近づいちゃダメだよ?」

「普通のじゃない?」

地底竜(アースドラゴン)様だと思う」

 うおぅ、それはやばい。

 ドラゴンのお知り合いなんざ、アイリスのマスター氏がいれば充分だよ。

 ちなみにサイカさんたちも、

「ならば、その中央エリアは禁忌に指定しておくにゃ。あとで道端に(ほこら)と警告を置くニャ」

「あ、そういうもんなの?」

 意外だ。商人なら調べまくるもんかと。

「真竜はウチら商人にとっては旅路の神様ニャ。手を出すなんて阿呆のする事ニャ」

「なるほど」

 わかりやすい返答に、俺はうなずくしかなかった。


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